“たった一人”のターゲットは「自分」でいい
では、どうやってその“たった一人”のターゲットを見つければいいのでしょうか。根本的なところでは、「自分」で良いと思っています。僕はすべての制作物を10代の頃の、パッとしない田舎の冴えない男子であった自分に向けてつくっているふしがあります。彼がどんなものに興奮して笑って、元気になってくれるかを。
とはいえ、それだけではイメージが膨らみきらないときもあります。たとえばクライアントから「ウチの商品は30代~40代の男性が購買層です」と言われたとき、ぼんやりとその年代の男性をイメージしても、ピンときませんよね。そんなときは、「大学の同級生のアイツ」とか、誰か特定の人物を思い浮かべましょう。そして、その一人に向けて全力でつくるのです。
もし可能であれば、その特定の人物に実際にアイデアを話してみたり、絵コンテを見てもらったりしてもいいかもしれません。もらったフィードバックを元にブラッシュアップすれば、そのクリエイティブはさらにリアルで濃密なものになると思います。
とにかく、ぼんやりと想定されている存在しないターゲットよりも、顔の見える具体的な誰かにウケることを想像するのが大切です。
戦闘シーンだけ熱心に見ていた4歳の息子
僕が『TAROMAN』をつくったときは、岡本太郎作品を若い人にも知ってほしいということもあり、当時4歳だった自分の息子が喜びそうな作品とはなんだろう? ということを考えました。
テレビで特撮番組がはじまると、息子は人間ドラマにはまったく興味を示さず、戦闘シーンだけを熱心に見ていました。それならばと、ドラマパートを極端に減らして、ほぼ特撮シーンだけで構成することにしたのです。
結果、息子も楽しんでくれて安心したし、子どもたちをはじめ少なくない人に届いた実感もありました。
とはいえ、具体的なターゲットが浮かばないときもあります。その場合は、一緒に仕事をしているスタッフにウケるためにはどうしたらいいか考えることもあります。
サノヤス・ヒシノ明昌(現・新来島サノヤス造船)のテレビCM「造船番長」の現場では、アニメーション制作を手伝ってくれた大学時代の同級生・田中紫紋に対して、次はどんなカットを送ったら彼はウケるだろうか、と考えながら絵コンテを描いてはメールで送りつけ、反応を見ながら制作しました。
結果的に、地方のローカルCMがカンヌ国際広告祭PR部門で銀賞を受賞することができたので、こんな方法も時には有効かもしれません。