3:党員資格停止と役職停止となった5人衆
筆者は、プレジデントオンラインで〈「安倍氏亡きあとの親分は俺だ」内閣改造・党役員人事から読める岸田首相の真の狙い〉(2022年8月13日配信)と題する記事を執筆した。その中で、当時の内閣改造・党役員人事は国民向けというものではなく、「安倍氏亡きあとのリーダーは、安倍派の『松野、西村、萩生田』の中で誰かを優遇するのではなく、平等に扱うことで同派の安定化を図ること、さらには、岸田総理自身の立ち位置を明確にし、安倍氏の代わりになるリーダーは自分だということを党内外に誇示したかったのではないかと推察できる」との見立てを書いた。
今回の処分でも、そのことがよくわかる。筆者の見立てでは5人衆の中でもっとも総理が嫌っていたであろう人物は世耕氏である。参議院の本会議場で、議事録にもしっかり残す形で、岸田総理のリーダーシップや言葉の重み、発信力をこき下ろしたためである。あの時は安倍派議員からも、「さすがにやりすぎ」との声があったという。そのため、参議院側の安倍派の会長という肩書きであることを理由に、派閥座長である塩谷氏とともに、復党もできない可能性がある離党勧告という厳しい処分を下した。
一方、西村康稔氏は党員資格停止1年になり、松野博一氏と萩生田光一氏は党の役職停止1年という処分になった。
党員資格停止は、自民党を離党するわけではないのでいずれ自民党で仕事ができるということが確約されており、離党勧告との大きな違いはそこになる。
つまり前出2人の離党勧告者が再び自民党に戻るためには党紀委員会での再度の議論を経て、復党を認められるかどうかが決められるため、自民党に戻れるかの保障はないのだ。世間的には、「いずれしれっと復党する」との意見もあるが、それほど簡単ではない。
では、党員資格停止はどうか。この場合、1年が過ぎれば自民党員としての資格が戻ってくるものの、次期選挙では自民党の公認がもらえず、自民党での部会などに出ることもできないのは離党勧告者と同様である。そういう意味では、党員資格停止の西村氏と、役職停止の松野氏・萩生田氏の処分には極めて大きな差がある。
西村氏は次の選挙は自民党からの公認をもらえないものの、その選挙区に自民党公認候補が本部から送り込まれることはないため、無所属で勝ち上がってくることができれば議員を続けることは可能で、さらに選挙を経ることで、一定のみそぎが済んだということになれば、大きく影響力がそがれることはないかもしれない。
ただ、西村氏は選挙に強いと言われているものの、最近メディア出演の多い元衆議院議員で、前明石市長の泉房穂氏などが野党候補として出てくれば苦戦を強いられる可能性は高い。
一方、松野氏、萩生田氏は政府や党の役職はすでに降りていることもあり、今回はさらなる処分はなかった。岸田総理も安倍派の中で森喜朗元総理と距離のある松野氏と森元総理の秘蔵っ子である萩生田氏を頼ってきたという経緯がある。今後は検察審査会での審査が待ち受けているが、松野氏と萩生田氏が次の総裁選でどう動くのか注目される。
今回の処分では、役職が処分の基準となったことに注目したい。なぜなら、金額での処分が検察の処分基準であり金額も処分基準に入れることもできたからだ。
安倍派「座長」や「参議院会長」「事務総長」経験者として、還付金(キックバック)の戻し方を安倍元総理が今のやり方から変えようとしたにもかかわらず、幹部として変えようとしなかったというところに処分の力点が置かれている。
5人衆のうち、世耕氏が離党勧告、西村、高木氏が党員資格停止、松野、萩生田氏が党の役職停止という段階的処分になったことの意味は、金額をあえて処分基準に入れないことで、松野氏、萩生田氏を救い、世耕氏を追い出したことだ。
そこに今回の党内権力闘争の本当の意味が隠されている。
下村氏は、安倍元総理の死後、森元総理によってすでに次期リーダーを外されていた。そして今回、世耕氏は岸田総理によって次期リーダーを外された。生き残ったのは松野氏と萩生田氏だが、検察審査会や総選挙といった壁が立ちはだかる。
国民の支持率が依然低迷し、「なぜ岸田首相自身への処分はないのか」と厳しい意見も出る中、自民党内では「岸田の後も岸田だ」と言われているゆえんはそこにある。今回の処分で、松野氏と萩生田氏のチームは反岸田として動きたいところだろうが、義理と人情が大切な政治の世界でそれを実行したら……。上に行けば行くほど、そのことはよくわかっているはずだ。
とはいえ、いつの時代も政界には魔物が住んでいる。一寸先は闇であり、どうなるかは誰にもわからない。