違法な番組介入をしても開き直る
日本郵政グループは、経営委に「ガバナンスの検証」を正式に申し入れ、森下氏は「番組は極めて稚拙」などと執行部を激しく叱責。経営委は10月23日、日本郵政グループの意に沿う形で、上田良一会長(当時)に対し、異例の「厳重注意」処分を下した。
NHKは事実上の謝罪に追い込まれ、11月6日、放送現場のトップである放送総局長が「説明が不十分で誠に遺憾」とする上田会長名の文書を日本郵政グループに届けた。
経営委の圧力に、執行部が屈した形で区切りがついたのである。そのとき、上田会長は「厳重注意」は「NHK全体、経営委も含めて非常に大きな問題になる」と事態の重大性を訴えていた。
処分は公表されなかったが、1年ほど経った2019年9月、毎日新聞の報道で発覚、上田会長の予言通り、国会も巻き込む一大騒動となった。「『厳重注意』によってNHKの番組制作の自主自律が脅かされたのではないか」という問題が急浮上したのである。
経営委が番組への干渉を禁止する放送法の根幹に抵触した疑いは、誰の目にも明らかだった。
だが、森下氏は、あくまで「ガバナンスの問題」と強弁し、「番組介入には当たらない」と開き直った。
司法が議事録の隠蔽を断罪
そこで、③の問題がクローズアップされた。
放送法は経営委員長に議事録の作成と公表を義務づけているが、森下氏は、「厳重処分」を決めた会議の議事録の公表を拒んだのだ。
NHKの「情報公開・個人情報保護審議委員会」が2度にわたって議事録の全面開示を答申したにもかかわらず、当初は無視。「厳重注意」から3年近く経った2021年7月になって、ようやく委員会での議論の概要を明らかにしたが、議事録は「正式ではない粗起こし」に過ぎず、細部は不詳のままだった。
議事録を開示しなかったのは、そこに隠したい何かがあったからだと誰もが受け止めた。番組介入のようなやましいことがなければ、早々にオープンにできたはずだからだ。
そこで、市民グループや元NHK職員ら約100人が、経営委の正式な議事録と録音データの開示を求める訴訟を起こした。
その結果、東京地裁は2月20日、NHKと森下氏を断罪した。「録音データは消去した」というNHKの主張を退け、さらに森下氏は議事録の開示を妨げたと認め、計228万円の損害賠償金の支払いを命じたのである。判決は、執行部のガバナンスを問題視した経営委自体のガバナンス不全を指弾した。
不名誉極まりない判決を受けた森下氏は控訴したが、悪あがきというよりほかはない。「NHKの名誉や信用を損なうような行為をしてはならない」とする経営委員の服務規程を委員長が自ら逸脱してしまったのだから、何をかいわんやである。