ついでにいえば、現在の経営委員は、委員長代行の榊原一夫・弁護士のほか、五十音順に、明石伸子・NPO法人日本マナー・プロトコール協会理事長、礒山誠二・九州リースサービス社長、大草透・元三菱地所常勤監査委員、尾崎裕・大阪ガス相談役、坂本有芳・鳴門教育大大学院教授、堰八義博・北海道銀行特別顧問、不破泰・信州大副学長、前田香織・広島市立大特任教授、水尾衣里・名城大教授、村田晃嗣・同志社大教授。

メディアの専門家は見当たらない。つまり、経営委員も、名誉職に過ぎないといっても過言ではない。これでは、経営委が報道機関としてのNHKのあり方について物申すことは難しい。

2023年末に開かれた総務省の有識者会議で、宍戸常寿・東京大学大学院教授が「経済や言論の競争を考える上で、経営委にメディアの経験者がいることは大事ではないか」と提言したが、その通りだろう。

そもそも、経営委がNHKの経営問題について指揮を執った例は、あまり聞いたことがない。ネット事業の必須業務化についても、しかりだ。経営委員は「公共の福祉に関し公正な判断をすることができる」というのが任命にあたっての唯一の条件だが、はたして視聴者のために実のある仕事をしてきたといえるだろうか。執行部が出した予算や計画を、唯々諾々と承認するだけの機関になり下がっているのが現状だ。

NHK放送センター
NHK放送センター(写真=Samulili/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons

放送史に残る“愚行”を重ねた森下俊三・前委員長

こうした中で起きたのが、森下氏の数々の“愚行”だった。まさに晩節を汚した所業で、あらためて整理してみる。

① かんぽ生命保険の不正販売を報じた番組を巡って、上田良一会長(当時)に対する厳重注意を主導した
② 厳重注意が放送法で禁じられている番組干渉に該当しないと強弁し続けた
③ 厳重注意を巡る詳細なやりとりが書かれた正式な議事録を公開しなかった
④ 認可されていないBS番組のネット配信関連費用を執行部が2023年度予算に計上したのに見過ごした
⑤ 「ニュースウォッチ9」によるコロナ禍報道の放送倫理違反、取材メモのネット流出、記者による800万円近い経費不正請求問題など相次ぐ不祥事の対応を、執行部任せにした
等々。

まず①と②について、経緯を振り返ってみる。

2018年4月24日、NHKは「クローズアップ現代+」で、郵便局員がかんぽ生命保険を不適切な営業で販売していたと報道、次いで続編の制作を計画した。

これに対し、日本郵政グループは、「犯罪的営業を組織ぐるみでしている印象を与える」と反発し、続編の取材を拒否。さらに、番組の責任者が「会長は番組制作に関与しない」と発言したことを取り上げ、「番組制作・編集の最終責任者は会長であることは放送法上明らか」と抗議した。

そして9月25日、日本郵政の鈴木康雄副社長(当時、元総務事務次官)が、経営委の森下俊三委員長代行(当時)に直談判し、善処を迫った。鈴木氏と森下氏は、監督官庁の事務方トップと監督される事業者のトップという関係だった。