アメリカ人が戦後の東京でのし上がったカラクリ
たとえば、東京のスナック経営者の代表団が、ニックの店に押しかけてきて「ピザの値段をもっと上げろ」と要求したことがある。
彼らは「ピザ・トースト」と称するまがい物を売り出していた。スライスした食パンにトマトと国産のプロセスチーズをのせ、オーブンで焼いただけの代物だ。しかしザペッティが経営する〈ニコラス〉へ行けば、その半分の値段で、スモールサイズのピザが食べられる。
「営業妨害だ」と彼らは主張した(このとき、彼らの口から「市場の混乱」という言葉がさかんに飛び出した。その後何年にもわたって、海外から市場開放を迫られるたびに、日本政府はこの言葉で武装した)。
日本人が売っているのは、単なる「グリルド・チーズ・サンドイッチ」にすぎない。ところが彼らはザペッティに、その十倍の値段でピザを売れという。これは不当な価格調整であり、共謀であり、一種のゆすりではないか。
ザペッティはきっぱり断った。彼には米軍基地という供給ルートがある。北米産の材料が格安で手に入るのはそのためだ。違法もへったくれもない。だからこそ手ごろな値段でピザを提供できるのだ。
闇ルートで仕入れるのは、彼にとって欲得ずくというよりも、むしろ必要に迫られてのことだった。
寝ぼけた理屈で外国勢を締め出そうとしてくる
普通の販売ルートで買えば、輸入品はべらぼうに高い。日本ではトマトソース一缶が、アメリカの五倍はする。豚肉やチーズも同様だ。ザペッティはこうした材料を、海外から大量輸入しようと何度か試みている。ところがそのたびに、わけのわからない規則や法律にはばまれ、許可がおりなかった。たとえば、トマトソースを輸入しようとしたら、役人にこんな寝ぼけたことを言われた。
「太陽光線に当てて栽培したトマトは、輸入できないことになっている。わが国では、輸入トマトはハウス物しか認可しない」
数少ない国内生産者を守るために、市場から外国勢を締めだそうとしているのは明らかだ。輸入品が市場に参入すれば、品質の劣る国内生産物は、たちまち吹き飛ばされてしまうだろう。チーズひとつを例にとってみても、日本は十九世紀に生産をはじめたばかりだから、ヨーロッパの水準にはまだまだほど遠い。
そんな商品に、法外な金額を払わされるのは、もっぱら働きバチのようなサラリーマンや、家計のやりくりに追われる主婦たちだ。そうした消費者のニーズは完全に無視されている。結局のところ、たっぷり政治献金をしてくれるのは、生産者であって消費者ではない。