むしろ低血圧で脳梗塞になる危険性も
しかし、タバコも吸わない、肥満もしていない、コレステロール値も正常、糖尿病もなく適度な運動もしている人で、身内に心筋梗塞や脳梗塞になった人もいないのなら、血圧が基準値を超えていても、あまり心配する必要はありません。
むしろ中高年の場合は、血圧を低めにすることで、脳梗塞などの危険性が高まることもあります。ですから、危険因子の少ない人は、血圧は今の厳しすぎる基準に合わせる必要はないと思います。
コレステロールも同じで、ほかの危険因子がない場合は、ことさら基準値内に入れるため食事制限をしたり、ましてや薬を飲んだりする必要はまったくありません。
それぞれの学会のずるいところは、全体の危険因子を無視して、自分たちの基準だけを押しつけてくることです。
もちろん、人間の健康には偶然の要素もありますから、危険因子が少なくても脳梗塞や心筋梗塞になる人もいますし、危険因子が満載でも長生きする人もいます。それは致し方のないことで、それを人間の力で変えることはできません。
健康人を病人に誘うシステム
健康診断を受ける人は、健康であることを確認するために受けるのでしょう。受診者はそのつもりでしょうが、健診をする側はそれだけではありません。
検査をすることで異常を見つければ、再検査や治療の対象者が増える。つまり、業界の顧客を増やすチャンスという側面もあるのです。
医療というのはパラドキシカルな業界で、病気を治すことを目的としながら、病気が治ると収益が減るというアンビバレントな状況にあります。だから、医療が発展して患者が少なくなると、困るという痛しかゆしの側面があります。そんな本当のことは、もちろん医療者は口にしません。
逆に医師会などは、「一人でも多くの人が健康になることを目指して」みたいなスローガンを掲げたりします。でも、本当にみんなが健康になったら、困るのは医療者です。
そこで目をつけたのが、予防医学という広大な埋蔵資源の領域です。
患者さんがより安全に、より安心に暮らせるようにと、さまざまな検査の基準値を厳しくして、それまでのゆるい基準なら健康と判断された人を、どんどん病人と判定しています。されたほうも、専門的な情報や説明で納得させられ、ときには感謝さえする始末。医療者はみんなそのカラクリを知っていますが、業界に不利になるようなことはだれも言いません。
迂闊に健康診断なんかいらないなどと言うと、世間や医療界から「それで患者が増えたらどうする」、「手遅れになったらどうする」、「責任は取れるのか」などと、反論困難な攻撃が飛んできます。
健康診断に否定的なことばかり書いてきましたが、健康診断で安心する人も多いでしょうし、健康診断のおかげで病気が見つかり、早めの治療が功を奏した人ももちろんいます。だから、全否定するつもりはありません。
ただ、何事にもよい面と悪い面があるように、健康診断にもよい面と悪い面があることを知る必要があると思うのです。症状もなければ治療の必要もない「異常」を見つけて、精密検査を勧めたり、医療機関の受診を勧めたりするのは、やはり無駄で迷惑なことだと思います。