「特に異常はありません=正常」ではない

腹部の診察を終えたら、「ちょっと脚も見ておきますね」などと言いつつ、検査着の裾をめくって、脛骨の前面を指で押します。ここは皮膚と骨が比較的密着しているので、浮腫(むくみ)があるとへこんでもどらないのです。

太っている人は、脛骨前面にも脂肪がついていますが、この場合は指で押さえてへこんでもすぐにもどります。下肢の浮腫は年齢的変化のほか、心不全や腎不全で起こりますが、健診を受けに来られるくらいなら、多少むくんでいてもどうということはありません。

さて、以上で健診の診察は終わりで、たいていの場合、受診者に「特に異常はありません」と告げます。ホッとする人、当然だという顔をする人、反応はいろいろですが、これはあくまで診察で異常な所見がなかったという意味で、完全に正常という意味ではありません。

今後、健康診断はAIが担当するようになるのではという意見があります。データの解析や判定は、人間よりAIのほうがはるかに正確で迅速だからです。そうなれば、聴診や腹部触診などの無駄な診察はなくなるでしょう。

しかし、最初の医者による問診だけは残るような気がします。AIではとても対応できない突拍子もない心配や相談が出るからです。先に書いたような奇妙な問いが返ってきたとき、AIは混乱せずに、人間らしい温かみのある対応ができるでしょうか。

高血圧だとなぜ悪いのか

健康診断では血圧が高いことを気にする人が増えました。先に述べたように、高血圧の基準がどんどん厳しく設定されつつあるからです。

私の年長の知人は、高血圧恐怖症ともいう状態で1日に何度も血圧を計り、120前後でないと自分を許せず、服薬もいやなので、食事療法や運動療法に励み、気に入る値が出るまで深呼吸して血圧を計ったりしています。

健診の問診でも、「今日計ったら、140を超えていました。今までそんな高い値が出たことがないのにどうしたんでしょう」などと、真顔で心配する人もいます。

血圧が高いとなぜよくないのか。それを十分に理解して血圧を気にしている人は、どれほどいるでしょうか。

高血圧がよくない理由は、動脈硬化の危険性が高まり、心筋梗塞や脳梗塞などの重大な病気につながるからです。しかし、動脈硬化は血圧だけで引き起こされるのではありません。喫煙、肥満、高コレステロール血症、糖尿病、運動不足、遺伝的体質などが影響します。これらを危険因子といいますが、該当するものがいくつかある場合は、血圧を下げておいたほうがいいでしょう。