大切なのは、日頃からの家族間の風通しのよさ

そして、その中で最も重要なのが、③「どのように分配するかを話し合うこと」です。これについては既述の通り、「反対者が一人でもいたら」……大変な事態になります。

相続に際しては、常日頃の家族間の風通しが大切です。関係性が良好なほど、これらの共同作業はスムーズにいくからです。

ビーチで手をつないで立つ多世代家族のシルエット
写真=iStock.com/monkeybusinessimages
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読者の皆さんは、ここまでのところでお気づきでしょうか。

かつては、家督制度の下で家族は知らず知らずのうちに結束し、強固な関係性を保っていましたが、戦後には、結束を支える中心軸が取り払われてしまいました。しかし、実際には結束しなければ、その難局を乗り越えることができないルールの下で相続の仕組みが成り立っていることを――。

つまり相続において重要なのは、本書にて繰り返しお話ししているように、日本本来の家族のあり方を捨ててはいけない、ということです。どのような結果が導き出されるか――それは私たちの足元にあります。

財産の流出を防ぐために必要なこと

本来ならば「遺言」にしておくことが望ましいのですが、実際に遺言を作成する方は残念ながら少ないのが実情です。遺言は、まだまだ一般化していないということです。

その望ましいはずの遺言を残さないのには、一般の方々からすれば、馴染みがないということもその一因かもしれません。しかし、矛盾するようですがその一方で、遺言を作成することで納税額が逆に増えてしまうことがあります。

それは、相続税は財産の分け方によって税額が大きく変動するからなのです。――つまり、「納税の最適値」と「どのように遺産を分けることが家族にとって望ましいか」という二つの点は、二律背反してしまうのです。

遺言は法的実効性を持ちますから、安易に作成してしまっては逆効果になりかねません。それには周到な準備が必要です。時間、労力、費用の点で、「しっかりした相続税対策をするんだ……」という決意のようなものが、家族全員に求められるのです。

そうした団結と意思決定ができる家族であれば、ぜひとも、事前の相続税対策を行うべきです。それによって確かな結果に結び付くことが期待できます。

また、現在では民事信託を活用し、被相続人の意志を具体的に反映した分け方や家族のあり方といったことまでも指定できるようになりました。このようにして、意志を家族に正確に伝え、同時にそれを伝え聞いた家族がそれを尊重し忠実に従うことで、大切な財産の不要な流出を避けることができるのではないでしょうか。