何も手を打たなければ、10カ月と10日で差押え

他方、相続税は亡くなった日から10カ月で納めなければなりません。現金一括納付が原則です。その算段が付かなければ、最短で納付期限から約10日で財産の差押えが入ります。実務の運用としては、少額ならばそこまで即座に、ということはないでしょうが、高額に上る相続税の場合には直ちに入るのが基本です。

差押えの対象は相続財産に限らず、各相続人の固有の財産に及びます。自分の預貯金も、住んでいる家も、その対象です。このように、突然の「人の死」という予測できない出来事に起因して、何も手を打たなければ、(最短)10カ月と約10日で差押えられてしまうという時間勝負の問題解決を迫られることになります。

一方、こうした状況に対して、古くからの商家などでは、家督相続の名残りから、葬式に集まった親族(相続人)に相続放棄の書類を預け、次の四十九日には持参するよう求める習慣がいまも生きづいています。こうした知恵が当たり前のように通用しているのは、家族親族間の良好な関係性、「家」を大切に思う心、先祖を尊ぶ想いが培われているからこそのことで、家のあり方がよく現れたエピソードだといえるのではないでしょうか。

コンサルタントの前で書類にサインする老夫婦
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相続とは「相続人全員の共同作業」

血縁が凝固剤の役目を果たし、家族の結束が固かった時代には見られなかったさまざまな問題が、相続の現場で噴出しています。

誰もが、相続税を少しでも安くしたいと考えるものです。少ないに越したことはありません。税理士はそのためにいる、というのもその通りです。

しかし、税金の流出を出来る限り少なくし、スムーズに進めるためには、相続人と税理士とが歩調を合わせることが大事です。

さらに、相続に際しては「家族の結束」が試されます。相続とは、相続人全員の共同作業にほかなりません。10カ月という限られた期間に、①相続財産を確定させ、②それを評価し、財産目録にまとめたうえで、③どのように分配するかを話し合い、④それを書面化し、申告書に反映させ期日までに申告し、⑤期日までに納税する――少なくとも①から⑤の作業が必要になります。