「勝たせていただいた」とへりくだりすぎる必要はない

そんな時期を過ごしたからか、度が過ぎた謙虚な言葉や姿勢に、むずがゆさを感じることがある。

たとえば、調教師やジョッキーがよく口にする、「勝たせていただいた」という表現。その馬の斤量だけを特別に軽くしてもらったり、その馬だけ10メートル前からスタートさせてもらったりしたのであれば「勝たせていただいた」となるが、現実的にはあり得ないわけで、どんなレースも決して誰かに勝たせてもらったわけではない。

自分たちの力でつかみ取った勝利なのだから、そこで変にへりくだる必要はないだろう、といつも思っている。

もちろん、育ててもらう必要がある若い時期は、謙虚な姿勢が何よりも大事だし、常に感謝の気持ちを忘れてはいけないことは言うまでもない。何しろデビューして数年間はどんなジョッキーも技術が足りなくて当然なのだから、それこそ「乗せていただかなければ」技術は磨けない。

そういう意味では、「応援してあげたい」と思ってもらえる謙虚な人間であることは大事なことだと思う。ただ、所属厩舎から離れて独り立ちすれば状況は変わる。フリーになってから依頼されたレースに関しては、必要以上にへりくだる必要はないし、感謝もそこそこでいいと自分は思う。

依頼された仕事に自分がきちんと応えることができれば、次も継続騎乗になるし、応えられなければ替えられて終わりだ。

競馬
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ライバル不在のリーディングで勝っても達成感が乏しい

2010年は、春から小野(雄次)さんのコーチングを受け、夏を機に気持ちも大きく変わり、秋も半ばを迎えるころには、心身共にだいぶいい流れになっていた。そして、順調に勝ち星を重ねた結果、その年に初めて関西リーディングを獲ることができた(全国リーディングは横山典弘騎手)。

心技共に転換を計ったことで、まさかこんなに早く結果が出るとは思わなかったが、小野さんのメソッドが自分に合っていること、方向性として間違っていないことを確信でき、このまま続けてさらなる高みを目指そうと心に決めた。

一方で、2010年は豊さんの長期にわたる戦線離脱に加え、岩田くんも9月から11月にかけて休養しており、実力でもぎ取ったという実感は乏しかった。