何か痛い目に遭っても「喉元過ぎれば熱さを忘れる」で、しばらくすれば再び活発に消費し始めるのが世界標準である。リーマンショックの震源地だったのに、相変わらず平気で借金をして、旺盛に消費するアメリカがいい例だ。ところが、日本人は「あつものに懲りてなますを吹く」ですっかり意気消沈してしまい、物を所有する欲がなくなった。

バブル崩壊前の日本人は、所有欲が日々の生活の原動力になっていた。サラリーマンは通勤に1時間20分かかるとしても、郊外にマイホームを買った。「都心から遠いと座れるからいい」とうそぶいて、長時間の通勤に耐えた。

また、多くの人が別荘を持つという夢を抱いていた。戸建ての別荘は無理でも、伊豆高原のリゾートマンションであれば手が届く。憧れの別荘を手に入れるために残業をいとわず働いて、高い金利を払って買ったのだ。

しかし、今の日本人は違う。家は職場に近いほど良くて、狭い賃貸で十分。別荘を持つ発想はなく、近場の温泉地に1泊できれば満足だ。たまに観光地に行っても、お金を使わない。人がすっかり変わってしまったようだ。

欲を失ったのは消費者だけではない。企業も同様で、成長のために借金して投資をする発想が弱くなってしまった。消費者と企業の低欲望化が、“失われた30年”の真因である。

政府はこのことがわかっていないから、見当はずれの政策ばかり行ってしまう。愚策の筆頭が、金利を払えない企業を延命させた「亀井モラトリアム」と、異次元金融緩和の「アベクロバズーカ」(アベノミクス)だ。いくら企業がお金を借りやすくしたところで、成長の意欲がなければ投資は進まない。むしろ何もしないで生き延びられる状況をつくったことで、企業はますます投資の意欲を減退させてしまった。

個人に対する政策も間違いだ。政府は消費が伸びないのは所得が少ないからだと言って、企業に賃上げを要請している。しかし日本人の個人金融資産は増え続け、23年に2100兆円を突破した。中高年はお金があっても増やそうとはしないで、0.001%しか利息のつかない預金口座に“安置”し、消費しようともしない。一方、若い世代はたしかにお金がないが、そもそも物欲がなく、稼ぐ意欲も低い。無理に賃上げしたところで、個人金融資産をさらに積み上げるだけだ。

国民や企業の失われた欲望を喚起せよ

政府が最優先で取り組むべき政策は、日本人に欲望を取り戻させることである。具体的には、お金を使いたい人の邪魔をしないことが大切だ。未婚化・少子化が続いているが、若い人の中にも結婚して子どもを持ちたい人はいる。

日本人の欲望を刺激するために、欲がある海外の人や企業を呼び込むことも重要だ。オーストラリアやカナダはお金を持ち込んでくる外国人に永住権や市民権を与え、お金はないものの上昇志向が強い外国人には国費で教育を施し、成績が良い人を受け入れる。そうした外国人の経済活動は、国内経済を直接回すだけでなく、もともとの国民の欲望にも火をつけてくれる。

政府は次々に景気対策を打ち出しているが、それらは経済刺激策ではない急場しのぎで、見当違いの政策だ。より根本的な政策は、国民や企業の失われた欲望を喚起することである。より良い人生を謳歌おうかしたいという欲望に支えられて、消費や投資が活発になり、企業が利益を上げる。それを反映して、株価が上がっていく――。この流れをつくれない限り、「失われた30年」は永遠に打破することができないことを、政府は早急に自覚するべきだ。

(構成=村上 敬)
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