日経平均株価が初の3万円台に突入した88年12月頃から、証券会社やマスコミはこぞって「株価はもっと上がる」と煽った。「6万円台になる」と言い放ったエコノミストもいた。日本は資源のない国だが、情報化社会に突入すればそれが追い風になり、日本に世界中の情報が集まって独り勝ちするという論法だ。80年代にベストセラーになったエズラ・ヴォーゲルの『ジャパン・アズ・ナンバーワン』とアルビン・トフラーの『第三の波』の内容を都合よく切り貼りしたような主張である。

しかし、それは絵に描いた餅である。日本中がバブルで浮かれている頃、私は企業が将来得る利益を現在価値で割り戻す「収益還元価格法」を用いて、日本企業の本当の価値を計算した。収益還元価格法の結果から日経平均株価を算出すると、1万2000円という数字になった。なお、これはバブルが継続した場合の価値で、バブルが崩壊すれば9000円台になる。この計算結果を知った不動産会社やバブル紳士からは、「不吉なことを言うな」と脅された。

不吉も何も、私は今ではM&Aにも使われる手法で冷静に企業価値を計算しただけである。むしろ根拠のない「予想」をしていたのは証券会社やマスコミだ。証券会社は自ら希望的観測に満ちた予想をして、「株価はこうなりますから今買わないと損」と中金持ちの尻を叩いた。34年前の3万8915円は、そうやって人為的につくられた株価だった。その後、バブルが崩壊して株価は低迷。私の「計算」が正しかったことが証明されている。

物差しの不正確さに目をつぶったとしても、今回の最高値更新は喜べない。株価の上昇は、日本の実体経済が良くなったことが理由ではないからだ。

日経平均株価上昇の背景にあるのは、アメリカの株高だ。アメリカの代表的な株価指標の一つS&P500種指数は、2月9日の終値が史上初の5000ポイント超えとなった。通常、株価が上がると、次は不動産にマネーが流れる。しかし、アメリカは不動産市場がすでに下降局面で、行き場を失ったマネーが世界中に分散投資されている。

世界中と言っても、ヨーロッパは元気がない。また、中国からは逆にマネーが逃げている。そこで世界の投資家が選んだのが、インドと日本。日本企業は相変わらず死に体だが、急に天から精力剤を注入されたようなものだ。

バケツに水を注げば水面が上がるのは当然で、株価の上昇を楽しんだ投資家は頃合いを見て利食いをするだろう。その水を注ぐ代表が、バークシャー・ハサウェイ会長のウォーレン・バフェット氏だ。「日本のインデックス」のような5大商社株を買う動きに、他の投資家が便乗した感がある。さらに、百歩譲って世界の投資家が日本企業を正しく評価して株を買っているのだとしても、それはまったく自慢にならない。

日本は約34年かけて株価をバブル期の最高値に戻したが、同じ期間を他国と比べると愕然とする。アメリカのS&P500種指数は、89年12月29日の終値が353.40ポイント。24年2月22日の終値が5087.03ポイントだから、低迷する日本株が株価を元に戻す間に、米国株の株価は約14.4倍になっている。ドイツ株価指数も同じように計算すると、約9.7倍だ。史上最高値と浮かれている場合ではない。成長する他国をよそに、株価を過去の数値に戻しただけの情けない話なのである。

米国の株式チャート
写真=iStock.com/honglouwawa
※写真はイメージです

日本経済停滞の元凶が「低欲望化」である理由

私が「失われた30年」は続くと考える理由は、バブル崩壊にりた結果、変質してしまった「日本人」そのものが変わっていないからだ。

バブル崩壊のきっかけは、金融機関に対する窓口指導・総量規制だ。バブルで不動産価格が上昇してサラリーマンが住宅を買えなくなると野党が騒ぎ、金融機関の貸し出しに規制をかけた。そこから不動産価格が下がっていき、バブルが弾けた。融資を規制された銀行は傘下のノンバンク経由で金を貸していたが、そのノンバンクもひっくり返り、多額の不良債権を抱えることに。そして、政府は金融システム安定のために、230兆円もの公的資金を注入した。公的資金とは、とどのつまり国民負担である。日本国民は、バブル崩壊の清算で大きなツケを払うことになったのだ。