強盗の報酬は800万円という大金だった
2023年2月26日午後、福島県南相馬市。瓜田翔(20歳)はその家の門の前に立つと息を潜めた。
ターゲットとして指示役の石志福治(27歳)に指定された家はあまりにも大きい。見れば、敷地内には復興作業員のためと思しき簡易住宅が建てられている。朱色の門をくぐっても母家までたどり着くには数十メートルもある。誰に見られるかわかったものではない。そもそも数時間前、下見のために、道を聞くふりをして家主と接触したが、その目には明らかに不審の色が見てとれた。
警察など呼ばれてないだろうか……そんな不安が次々と押し寄せてくる。しかし、そんな不安を追い払ったのは「カネ」の存在だった。
目前の屋敷を見れば見るほど、「この家には“金塊”が溜め込まれている」という指示役の話に説得力を感じるようになっていた。強盗の報酬は800万円を約束されていた。それだけの大金があれば人生をやり直せる。瓜田はここ1、2年の間に自らの身に起きた出来事を噛み締めていた。
「カネを持っているヤツから奪うまで」
そのとき、横にいた江口将匡(20歳)は「話が違う」と口に出しそうになっていた。
瓜田に貸したカネを「返す」と言われ、運転手役を引き受けたのに、まさか凶器を片手に民家に押し入ることになるなど思いもよらなかった。
瓜田からは「俺の仕事を手伝えば、借りているカネに色をつけて返すよ」と言われていた。もともとは自分のカネなのに、その言葉に目が眩んだ。ただ、瓜田は高校時代からの親友なのだ。ほっておけない、というのも本音だった。
一方、土岐渚(22歳)は自らの会社のためにはなんとしてもカネが必要だった。その額は400万円。借金を返さなければ会社が潰れてしまう。雇っている若い従業員達を露頭に迷わすことはできない。父親からカネを借りてしのいできたが、もう限界だった。
それならカネを持っているヤツから奪うまでだ。働きもしないヤツがカネを溜め込んでいるのが間違ってる。これはある意味、世直しだから退く理由もない。誰よりも覚悟が決まっていた。
そして、3人はハンマーやパイプレンチなどを手にその屋敷に押し入った。