『ドラゴンボール』は「秩序を維持する世界」を描く

このインテグラル理論は、日本のマンガに当てはめると理解しやすいと思います。

あしたのジョー』や『北斗の拳』が描く、暴力による支配や勝利の時代=レッドの段階
ドラゴンボール』や『セーラームーン』が描く、世の中の秩序を維持する時代=ブルーの段階
ONEPIECE』や『NARUTO―ナルト』が描く、自由を謳歌し夢に向かって走る時代=オレンジの段階
鬼滅の刃』や『呪術廻戦』が描く、相互理解や融和の時代=グリーンの段階

この半世紀を振り帰っても、ヒットした作品はこのような変遷を辿ってきており、これをわかりやすく説明できるのが「インテグラル理論」なのです。

【図表1】『ドラゴンボール』をインテグラル理論で分析した図表
武器としての漫画思考』(PHP研究所)より

日本では、第二次世界大戦で様々な社会制度や価値観などが「リセット」された後、現在までに社会の意識段階が著しく成熟してきました。

各時代の主要な漫画作品を見れば、当時の人々の意識段階とリンクした作品が、見事にヒットを飛ばしていることがわかります。往年のヒット作品を現在の我々が見返すと、何か古臭く感じてしまうことがあるのはそのためです(古臭い=駄作ではありません。悪しからず)。

「天下一武道会」編と「ピッコロ大魔王」編は何が違うか

続いて、1984年から1995年まで、『週刊少年ジャンプ』で連載された国民的漫画『ドラゴンボール』に、インテグラル理論を当てはめたらどうでしょう?

同作は連載初期に、主人公の孫悟空が「天下一武道会」というトーナメント戦に出場して優勝をめざしたり、「レッドリボン軍」という敵役を壊滅する(力で支配する)という姿が描かれ、人気を博しました。

これらは「勝利こそ正義」という価値観の表れそのものであり、〈弱肉強食で、個々の強さが絶対的な指標となる〉レッド段階の意識が顕著に表現されています。

そこからさらに、平和を脅かす「ピッコロ大魔王」や「サイヤ人」という異物が現れると、こうしたイレギュラーを排除して地球人を守る主人公の姿が描かれました。〈規律やルールができ、それらを絶対として遵守する〉ブルー段階のヒーローを表現しています。

その後は、一見冷徹無比に見えた「人造人間」に、人権意識といったものが描かれたり、地球を守ることは大事だけど、自分は自分の道を生きたいという〈個々の自由や尊厳を認め、成功のために合理的な行動を取る〉オレンジ段階に進んだ主人公の姿が描かれていきました。

さらに、最終話までにグリーン段階のストーリーまでが描かれています。

このように、たった一つの作品ですら、主人公の成長とともに意識段階の変遷を見て取れるのです。

インテグラル理論のフレームワークにより、各漫画の集団や登場人物それぞれがどの段階に位置しているのか、どういった社会背景のもとで、どう変化していったのかを考えながら読み進めると、一層深く味わえること間違いなしです。