世界中を混乱に陥れた新型コロナウイルスのワクチン開発では、日本企業は後塵を拝した。しかし、他の感染症では日本企業も奮闘している。2月からブラジルでデング熱のワクチンの供給を始めた武田薬品工業の取り組みを、現地在住フォトグラファー兼ライターの仁尾帯刀さんがリポートする――。
ブラジルでデング熱が大流行
南半球のブラジルでは今が夏の終わり。ブラジルの夏といえば、リオデジャネイロのサンバパレードが世界に知られる。サンバのリズムで踊る露出度の高い女性ダンサーの姿を思い浮かべる人も多いだろう。だが、2月11、12日に行われた今年のパレードは例年と大きく異なる点が一つあった。
パレード会場で、リオデジャネイロ州保健局スタッフがパレード参加者へ蚊よけスプレーを散布し、パレードの合間には宣伝車がデング熱対策キャンペーンを積極的に広報していたことだ。
デング熱は蚊を媒介して感染し、急激な発熱のほか、発疹、頭痛、骨関節痛、嘔気・嘔吐などの症状が現れる疾患だ。毎年3億9000万人が感染していると推定されており、世界保健機関(WHO)は「2019年の世界の健康に対する10の脅威」の一つにデング熱を挙げている。
致死率は決して高くはないが、子供を中心に重症化することがあり、死に至ることもある。WHOは毎年2万人が死亡していると推計している。
世界の熱帯・亜熱帯地域を中心に感染が確認されており、ブラジルは全域がデング熱発生地域とされている。
リオデジャネイロ市の今年1、2月のデング熱感染件数は3万3254件で、たった2カ月で2023年1年間の感染者数1万9786件の168%を記録した。市はパレード1週間前の2月5日にデング熱による緊急事態宣言を発出し、市内にデング熱対策医療センターを10カ所設置した。
今、ブラジルではデング熱が例年以上に大流行しているのだ。