「入院患者を9割減らすことができる」
爆発的な感染拡大が続くブラジルで、武田薬品は年内にQDENGAワクチン660万本をブラジル保健省に納品することを確約し、2025年には900万本の供給を見通している。
また、世界においては2030年までにQDENGAワクチン1億本を供給する目標で、今年2月27日にはインドの医薬品企業バイオロジカルE社と戦略的提携を結び、インドで最大年5000万回分を製造することを発表した。現在QDENGAワクチンはドイツ・ジンゲン市の武田薬品工場で製造されているが、2025年にはワクチン製造のグローバルセンターも同市に新設する予定だ。
武田薬品のブラジル法人は創業70年の歴史がある。サンパウロ市内の営業事務所に加えて、サンパウロ州内陸のジャグアリウーナ市に工場を構えている。
「私たちの工場では、主に消化器科、神経科学の治療に関する医薬品を、現在37品目製造しています。ワクチンの製造は一般の医薬品と異なり、特別な衛生管理と生物学上の安全プロトコルを満たす必要があるんです。武田薬品は、ワクチン製造をブラジルでも行えるよう国の公的研究所と提携することを求めているところです」と武田薬品ブラジル法人ホセ・マヌエル・カアマーニョ社長は語る。
「実証実験では、QDENGAがデング熱による入院患者を90.4%減少させ、デング出血熱を85.9%減らすという結果が得られました。ワクチンキャンペーンが順調に進んでも、新規感染者を大幅に減少させるまでにはまだまだ長い道のりです。デング熱感染を減らすためにはワクチンキャンペーンに加えて、媒介する蚊の駆除や社会での啓蒙活動が不可欠なんです」
デング熱の致死率は低いが医療体制を逼迫する
武田薬品はなぜブラジルでのデング熱ワクチンの供給に力を入れるのだろうか。
「ブラジルはデング熱感染件数において世界一で、死者数は全世界の5%を占めています。確かにインフルエンザなどと比較してデング熱感染による死者数は少ないです。しかし、デング熱感染とそれによる入院患者数の増加は、医療施設を著しく圧迫し、デング熱だけでなく他の病気の患者への対応が手薄になります。その点からも、やはりワクチンキャンペーンが必要なんです」
2024年度、ブラジルはデング熱感染件数において史上最多の500万件となることが予測されている。QDENGAという新たな武器とともにブラジル社会が今年1年どう戦っていくか、感染症分野における世界の注目が集まりそうだ。