「手触りの持つ価値」の重要性
100年ほど前、モルガン・スタンレーやウェルス・ファーゴなど“虚業”と言われた銀行が相次いでニューヨークの一等地に巨大なオフィスを構えていった時期があった。
建築デザインを引き受けたのは当時有名なデザイナーやアーティスト。なぜ地価の最も高い一等地に巨大建築を作る必要があったのか。それはまさしく「手触りの持つ価値」が必要だったからだ。
銀行にとっては安心や信頼が絶対的に必要な経営資源である。お金という最も重要なものを預ける場所だからこそ、客はリスクを感じれば預金の引き出しに走る。
そこで預金を守る証として絶対的に巨大な建築物を作り、これだけお金をかけた確かな手触りのある資産を持つ企業がつぶれるはずがないという信頼を得ようとしたのである。
人がその想像をリアルなものとして感じ続けるためには、フィジカルな場で手触りをもって伝え続けることが何よりも重要になる。
仮想のキャラクターが実体化する仕組み
ゲーム画面越しに何万人、何十万人がプレイしているカウンターを見るよりも、会場で1000人が熱を込めてプレイしている雰囲気を味わい、日常を過ごしている街中や旅行に行くときのエアラインにキャラクターを見ることによって、空想上のモンスターはリアルなものであり続ける。
リアルな存在感を示すという手法は、6000年前から徴税権を確かなものにするために国家が行ってきたものであり、それを100年前の銀行が応用し、半世紀前にはラジオ局やテレビ局が使い、今まさにポケモンなどのコンテンツ企業もそれを取り入れる時代に入った。
共通しているのは、「想像上」のものでありながら、それが未来永劫続くと錯覚しうるに足る、手触り感とブランドを目指していることだ。
2.5次元舞台や聖地巡礼のように、それが人々の口にのぼる頻度が日常化すればするほど、仮想のキャラクターは「実体化」し、その恒常性を担保することができる。
世界中でボードゲームが流行している
TCGは日本と米国が世界を牽引する二大市場だが、TCG「ばかり」売れている日本やアジアに対して、北米や欧州のトイショップを彩るコンテンツはもっと多様だ。
その1つに「ミニチュアゲーム」と呼ばれる兵士・兵器の模型を使った戦争シミュレーションゲームがある。
「ウォーハンマー」で知られる英国のゲームズワークショップ(GWS)は、ポケモンにも比するような空前絶後の好景気にある。
1975年設立のGWSがモンスター造形の兵士のフィギュアを使ってジオラマのようなセットで戦うボードゲーム「ウォーハンマー」を企画・開発してから、すでに半世紀近くたつが、近年になってそのアナログゲームは、小説、映画、家庭用・PCゲーム、モバイルゲームにも展開されている。