まるで1970年代に戻ったかのよう

セガがゲーム化した『Total War:Warhammer II』(2017)は100万本の販売を達成し、ユーロゲーマーのランキングで「2017年ベストPCゲーム賞」にも入った。

ファットシャーク社のFPSシューティングゲーム『Warhammer:Vermintide2』(2018)は200万本が売れた。2017年ごろからPCオンラインゲームでの成功やフランチャイズでの店舗展開にも成功し、GWSの売上は図表1にみるように2億ポンドから4億ポンドまで倍増した。

さらにコロナ期には、驚くべきことに売上は8億ポンドにまで倍増している。外出が減って子供たちと遊ぶことになった大人たちが、手触りをもって遊べるボードゲームに殺到したのだ。

世界中のウォーハンマーファンは、SNSとゲームを経由し、コロナ期にボードゲームに戻ってきた。特に米国は、TCG同様にボードゲーム市場が3年で倍増するような超好景気であった。

“古臭い産業”と言われ続けたボードゲーム業界だが、コロナの時代において、人々は「家の中での体験」の貴重さに気づいた。

自分で装飾したミニチュアや建物に囲まれ、気の置けない仲間とわいわい遊ぶのは、荒んだロックダウン下の生活を彩る、大事な社交活動となった。ウォーハンマーは「ファンタジーファン」を再び熱狂させているのだ。まるで1970年代に戻ったかのように。

すべてをネットに置き換えることはできない

前章で述べたように、ボードゲーム業界は様々な新規参入により再活性市場になっている。クラウドファンディングの勃興もそれを支援している。人が物理的に出会って、コミュニケーションをとりながら行うゲームは、デジタルゲームの普及・攻勢の中で低迷していたが、コロナという異常事態が人々にその価値を再発見させた。

中山淳雄『クリエイターワンダーランド』(日経BP)
中山淳雄『クリエイターワンダーランド』(日経BP)

リアルビジネスの評価は、2000〜10年代のネット普及時代が「底」だった。例えば百貨店や商店街はアクセシビリティの良さだけでビジネスを行ってきて、その中身には集客力が乏しかったということがEC時代に証明されてしまった。

棚に商品を並べるだけだった商売はどんどんと存在感をなくしていった。もはや「目的商品の購入」においてアマゾンに敵う商店は1つもないだろう。

それでも日本で年間200兆円ある小売売上のうちECは20兆円、つまり1割を代替したに過ぎない。米国も500兆円ほど小売売上のうちECは1割強。中国は小売チャネルが未発達だったために世界最先端のEC大国になったが、それでも600兆円ほどの小売売上のうちECは200兆円弱と3割ほど。

人々の熱狂が宿るのは「リアル」の空間

いずれの国においてもECは「物理的な小売空間を代替する」には届いていない。もはやネットのほうが安く、買いやすく、「すぐに手に入らない問題」も数時間デリバリーの実現で解消されているにもかかわらず、である。全世界で3000兆円にもなる小売売上がデジタルに代替されるのは1〜2割が限界といった見通しである。

なぜだろうか。それは我々がメタバースでの音楽ライブやユーチューブでの動画配信では「満たされていない何か」があることを体感しているのと同じである。「摩擦と干渉」も含めて、何らかの手触りがいかに人間にとって大事かということをネット空間は逆に教えてくれている。

干渉のないシームレスな世界は、人々の熱狂を保存することができないのだ。

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