1階だけで「最低15万円の作業」が3回は必要

玄関、廊下、左に曲がってリビング、その奥の和室にはかろうじて人が立てる畳が見えたので、そこで平出さんと私、Aさんの3人が、立ったまま話す。

平出さんが手にしている見積書は引越し会社のものに似ている。引越しであれば見積もりをしないことはあり得ないが、整理業者の中には見積もりを行わないまま強引に作業を開始し、あとから50万円、100万円と請求する会社もある。作業日と別に「見積もり」をするのは良心的な業者といえる。

Aさん宅では、作業するスタッフの人件費、処分費、運搬費を考慮し、1回15万~20万円という見積もりだった。

「物の内容で金額が決まるのではないんですか」

Aさんが少し驚いたように言う。

「つまり、2トントラックを動かして、そこに処分する物をいっぱいに詰めて、最低15万からということですよね?」と私。

平出さんが「そうです」と答える。

「一回作業をしてみると、もっと正確な金額が出せると思いますが、全撤去するとして1階だけで3回は作業が必要になるかと思います」
「そうなると60万くらいはかかるっていうことですよね」

Aさんが顔をしかめた。そしてあたりを見回し、「私が仕事が休みの日にここに通って、片付けてもいいんですが……」と小さな声で言う。私は内心、いや一人でできる量ではない、と思った。

生協のチラシでも「処分しますか?」と尋ねる

「とりあえず今日はナマモノ(食品類)を処分しますか?」と平出さんが提案し、Aさんは「ぜひお願いしたい」という。3人でできる範囲で片付けをすることになった。

台所、廊下、玄関と「ナマモノ」と「いらないもの」だけを取り出して処分用のダンボール箱に入れていく。簡単にできるかと思って始めたが、作業が進まない。いつもなら食品、液体、ライター、ビデオテープなどと仕分けながら、どんどん処分用のダンボールに入れることができる。ところが、今日はひとつひとつ、Aさんへの確認が必要になる。明らかに不要と思われるチラシや衣類なども、「どうしますか?」と尋ねなければならない。

流しにはビニールが
筆者撮影
台所の床にもゴミが
筆者撮影

「生協の広告がけっこうあるなぁ」

Aさんがぶつぶつとつぶやく。「あ、何か出てきた……みかんが干からびている」

「いりませんよね? いらないものは、もらいますよ」

私が問いかけると、彼は私が抱えるダンボールにそれを投げ込む。

想像してほしい。足の踏み場もない物の中で、依頼人がひとつひとつ要不要を悩み、その横でダンボールを抱えて立ち尽くす姿を。あなたならどこまで根気よく付き合えるだろうか。