家の中が空っぽでなければ「解体」はできない

Aさんは50代男性で、東京都内でひとり暮らし。実家は、都心から車で2時間ほどの距離にあり、数年前に父親が亡くなってからは、母親がひとり暮らしをしていた。他に身寄りはない。

私は以前、生前遺品整理作業を手伝わせてもらった石見良教さん(あんしんネット事業部部長)に連絡をとった。石見さんによると「最近このような空き家整理の依頼が増えている」という。高齢の親が退去し、空き家になった実家の手入れに悩む人が増えているのだ。「取り壊せばいい」と思うかもしれないが、家の中が空っぽでなければ解体作業は引き受けてもらえない。

同社では、まずはすぐに動ける社員が担当となり、見積もりからスタートする。今回は何度か共にゴミ屋敷を片付けたことがある平出さんが請け負うという。

家の中の状況が全くわからないため、私は事前にAさんと電話で話した。その日は水曜で、先週金曜日に母親が亡くなったというのに、「可能であれば今週末までにナマモノの食品やゴミの処分を応急処置でしたいと思っている」と言う。

「応急処置」という言葉がひっかかった。早急に対処しなければならないほど物が多いということだ。だから私は「ゴミ屋敷かもしれない」と予測した。

外観はごく普通の戸建て、庭も片付いていた

「この後あんしんネットさんから連絡が入ると思いますが、金額をしっかり確認してくださいね」

私は平出さんと一緒に彼の実家にうかがうことにし、匿名で記事にすることの了承も得て、電話を切った。

その週の日曜日、平出さんの車で現場に向かっているときに、私は「依頼人から金額について聞かれましたか」と尋ねた。平出さんはハンドルを握りながらうなずく。

「今日は見積もりと、5万円程度のナマモノの処分となりました」
「ゴミ屋敷かなぁ……」

私がつぶやくと、「いや、それはないんじゃないですか。電話でそのような話も出てきませんでし」と平出さん。

その家は、駅から車で15分程度の住宅街にあった。外観はごく普通の戸建てで、車一台を停められるスペースがある庭も片付いている。

玄関には故人を偲ぶ花があった
筆者撮影
玄関には故人を偲ぶ花があった

しかし、玄関を開けると、そこは閉ざされた別世界。私と平出さんは瞬時に、中のひどい状況を悟ったのだった。

「見積もりができました」

室内に入って10分ほど、いくつかの箇所をチェックしていた平出さんが言う。