50代男性(Aさん)から、「ひとり暮らしだった母親が亡くなり、空き家となった実家を片付けてほしい」という依頼を受け、筆者は生前遺品整理会社「あんしんネット」の社員と現地を訪ねた。するとそこは想像以上の「ゴミ屋敷」だった。主治医は「Aさんは発達障害のため、亡くなった母親もそうだったのではないか」という――。(後編/全2回)

高学歴で仕事はできるが、生きづらさを感じやすい

前編から続く)

精神科医の仮屋暢聡氏は「発達障害は遺伝的要素が強い」と言う。

「両親のどちらかがADHD(発達障害の一種、「注意欠如.多動症」)だった場合、子どもが4人いれば3人がADHDとなる可能性が高いです。発達障害の中でも最近は、ADHDと自閉スペクトラム症が重なりあうなど、さまざまなケースがありますが、総じて高学歴で仕事はできる方が多いです。一方で対人関係がうまくいかなくて、パワハラやセクハラのようなハラスメントを受けやすい傾向にあり、うつ病や双極性障害、アルコール依存症、ギャンブル障害など二次障害(併存障害)も引き起こしやすい。個性あふれる才能がある方も多いので、私は患者さんを面白いと感じますが、本人はとても生きづらさを感じています」

家がゴミ屋敷になってしまうことも、よくあるという。

「物が捨てられなくて、部屋に物があふれてしまう。生ゴミと書類が同列に置いてある部屋になっていることが多く、物理的にも片付けられないし、頭の中もごちゃごちゃしていて整理ができません」(仮屋氏)

私はAさんの実家に「傘」や「靴」、庭で使う「工具類」、「サイダー」などが大量にあったことを思い出していた。ゴミ屋敷ではあるあるの話だが、仮屋氏は興味深そうに聞き、こう言った。

ゴミの山から出てきたハサミ
筆者撮影

「ストレートに伝える」ことがポイント

「ADHDは注意の集中が持続しないので、目の前からなくなると忘れて、あれがないと言ってまた買ってくる。だから同じものが室内に何個もあるという状態なのでしょう。目に入ると『これはいるだろう』という認識してしまいますから、本人が目に入っていない時に物を処分してしまうのがいいと思います」(同)

家に物があふれて生活できなくなる「ためこみ症」という精神疾患があるが、両者は全く異なる病気だと思った。ためこみ症の場合は、物に対する愛着や執着がものすごく強いので、勝手に捨てることはできない。

物やゴミであふれかえった室内を見て、その人がためこみ症か、ADHDなのかを判断することは難しいが、Aさんの場合は、発達障害(ADHD)という医師の診断を受けている。その場合、明らかな不用品は見えない場所で捨てること、そして「ストレートに伝える」ことがポイントという。

振り返ると、Aさんに対して私はわりと的確に対応できていたと思うが、それでも同じ空間にいながらわかりあえないもどかしさがあった。