12本あった傘の選別には随分と時間がかかった

前回の「見積もりと応急処置」の作業代は、2万6000円だった。内訳は「あんしんネット」の社員.平出勝哉さんの作業代と物の処分費、運搬費だ。処分した量はダンボール4箱程度だが、作業時間は、Aさんにひとつひとつ要不要を尋ねたため3時間はかかっている。都心から車で片道2時間近くかけて現場を訪ねたことを考えると、これだけでは整理会社の儲けはないだろうと思う。

私はひととおり作業を終えた後、Aさんに対して、「今後どう片付けていくつもりか」と聞いた。

Aさんは首をかしげて「そうですねぇ」とあたりを見渡しながら、こう話した。

「とりあえず仕事が休みの時に来て、服だけでもゴミ用の袋に詰められたらいいと思うのですが……。服だけは判断に困りませんからね」

そうだろうか。12本あった傘の選別には随分と時間がかかった。母親が使っていた帽子や靴、手押し車の中でも、Aさんが「いる」と判断を下した物が半分以上ある。

リビングの様子
筆者撮影
リビングの様子

生協のチラシさえ一枚一枚見ていた

「あとは机の上の紙類を整理しないと。病院の領収書が確定申告で必要になりますから整理をしないと」

もし自分が、ここから病院の領収書を見つける作業を頼まれたら、気が遠くなる。しかも、Aさんは生協のチラシさえ一枚一枚見て処分に時間がかかっていた。失礼だが、領収書を整理できるとは思えない。

「もう一箱くらい、服を処分しますか?」

平出さんが気を利かせて声をかける。Aさんが首を横に振る。

「葬儀を終える前に服を処分するのも気が引けますし……。火葬場が混んでいるみたいで、まだ葬式もできていないんです」

それならどうして「今週末までに応急処置をしてほしい」と言ったのだ、と文句を言いたくなったが、依頼人相手なので黙っている。