東証は一連の事態を改善するため、市場改革を何度も試みてきたが、企業側の抵抗が大きく、うまくいかなかった。業を煮やした東証がPBR1倍割れの企業について、事実上市場からの退出を促すなど、企業改革に本腰を入れ始めたことで、ようやく状況が変わってきた。
東証の動きを受けて、企業側も対応策を練らざるを得ない状況となっており、一部企業は株価を重視した経営への転換を試みている。こうした動きがポジティブに評価され、今回の株高につながったのは間違いない。
高い株価を維持する戦略と高い賃金は比例する関係
株価を意識した経営と聞くと、一部の人は短絡的にマネーゲームのようなものを想像するかもしれないが、現実は全く異なる。
先ほど説明したように、企業が株式をわざわざ上場するのは、資金調達が目的である。株価を高く維持することは、企業の資金調達環境改善につながり、最終的には業績拡大や従業員の賃金上昇をもたらす。高い株価を維持する経営戦略と高い賃金は基本的に比例する関係にあると考えていい。
PBRが1倍割れを起こしている企業の多くは、株価が割安なのではなく、将来に向けた十分な展望や戦略が描けていないのが現実だ。事実上、企業の経営に介入する東証の改革手法は荒療治と言えるかもしれないが、成長を実現できない企業は本来、株式を上場すべきではない。
長期にわたってぬるま湯につかり切っていた日本企業に対してはやむを得ない措置であり、経済全体への効果も大きいと考えられる。株式市場において企業の選別が進むのは決して悪いことではない。
当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら