「ソ連邦崩壊の屈辱を晴らす」プーチン氏の野望

仮にロシアがウクライナ南東部とベラルーシを併合すれば、ロシア連邦の領土が拡大し、欧州との緩衝地帯がなくなる。欧州にとって、安全保障上のロシアの脅威が一段と高まることになる。ロシアにとっては、領土拡張でソ連邦崩壊の屈辱を晴らすことができる。

実は、ベラルーシ併合文書が作成された2021年7月、プーチン氏は「ロシアとウクライナの歴史的一体性」と題する長文の論文を発表している。

論文は、「ロシア帝国では、大ロシア、小ロシア(ウクライナ)、ベラルーシの3民族が団結した」とし、3民族を「三位一体のロシア民族」と称した。しかし、旧ソ連の民族政策の結果、3民族は別個の共和国に分断されたと旧ソ連の政策を批判。現在の国境線の正当性を疑問視し、ウクライナがロシアの歴史的領土を占領したと指摘した。

さらに、「3民族は共通の遺産と運命を共有する」とし、3国の歴史的一体性を強調した。

主権国家の独立と領土保全を尊重する戦後の国際秩序を真っ向から否定するゆがんだ歴史認識ながら、この論文がウクライナ侵略の理論的支柱となったようだ。

だとすれば、2021年夏の時点で、クレムリンはウクライナ侵攻とベラルーシ併合を同時に決断した可能性がある。

トランプ前大統領との結託で戦争を終わらせる?

プーチン氏は昨年12月の国民対話・記者会見で、ウクライナ戦争がいつ終わるのかとの質問に対し、「ロシアが目標を達成した時に平和が訪れる」と述べ、ウクライナの中立・非ナチ化・非軍事化を目指す目的が不変であることを強調した。

ロシアの攻撃で破壊されたウクライナの建物
写真=iStock.com/Hanna Bohdan
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「オデッサがロシアの都市であることは皆が知っている」「ウクライナ南東部全体はロシアの歴史的領土だ」とも述べ、南東部併合に続いて、南部の港湾都市オデッサ(ウクライナ語読みは「オデーサ」=編集部注)などの制圧を目指す意向を示した。

首都キーウ攻略は軍事的に困難だが、11月の米大統領選でのトランプ前大統領の勝利を見越し、米露の取引による戦争終結やゼレンスキー政権の事実上の降伏を目指す可能性がある。その場合、ロシアは首都キーウとドニプロ川の東側を支配する目論見だろう。

帝政時代に「ノボロシア」と呼ばれたドニプロ川左岸とベラルーシを併合し、「新ロシア帝国」を創設することが、21世紀の新ツァー(皇帝)、プーチン氏の5期目の野望かもしれない。西側からはすでに最大級の制裁を受けており、欧米の反発を無視して暴走しかねない。

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