「こちらが劣っているところがあったら教えてください」

彼らを「凄い」と思ったのは、お客さんが他社のクルマに乗り換えたときです。

普通であれば、それを境に疎遠になるところを、それでも挨拶を欠かさず、「やっぱりアチラのクルマの方が良かったですか?」とか、「こちらが劣っているところがあったら教えてください。必ず会社の上に伝えますから」といって、お客さんとの関係を継続させることです。

こうしたつき合いが続いていくと、次にクルマを買い替える際には、ごく自然にトヨタ車を選択することになるのです。

トヨタのセールスマンが、自社のクルマを売るために営業活動をしていることはわかっていますが、困ったときに助けてくれたり、家族の記念日を一緒に祝ってくれたりすれば、お客さんは、「ここまでやってくれるのだから、買わなければ申し訳ない」という気持ちになります。

一貫してお客さんに寄り添うというセールスマンの姿勢が、トヨタを世界一の自動車メーカーに押し上げた原動力なのです。

車のキーを客に渡す営業マン
写真=iStock.com/DragonImages
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「石油王」と呼ばれた出光佐三の経営者としての優しさ

現在の日本では、出来の悪い人に厳しく当たる傾向があり、それがいいことのように受け取られる風潮があります。

年功序列や終身雇用が当たり前だった時代から、欧米流の成果主義や実力主義の時代になり、かつては非難の的だった社員に対する「リストラ」が、いつの間にか「仕方のないこと」と受け取られるような世相になっています。

日本の会社にも、「社員に優しい経営者」がいた時代があります。

石油元売り大手「出光興産」を創業した出光佐三いでみつさぞうは、その代表格といえます。

「石油王」と呼ばれた出光佐三は、お金や権力のためではなく、「人間尊重主義」「大家族主義」を掲げて、第二次世界大戦の混乱の中でも、会社を存続させるだけでなく、社員の生活と権利を守り抜きました。

彼が貫いたのは、「四無主義」という画期的で型破りな経営方針です。

・「タイムカード」なし
・「出勤簿」なし
・「クビ」なし
・「定年」なし

出光佐三は、「従業員は家族であり、モノではない。家族に定年はなく、時間を管理する必要もない」と公言して、従業員が数十人のときだけでなく、数千人規模になっても四無主義を貫いたといわれています。

100人の社員を雇ったとしたら、5人くらいは出来の悪い人もいますが、そうした人のクビを切らないことが、全社員の一体感を生み出しました。

出来の悪い社員がいたとしても、簡単にクビを切らなければ、安心して一生懸命に働いてくれる……という信念を貫いたのです。

こうした優しさは、現代の経営者に一番欠けているものだと思います。