「もっと仕事がしたい」と言われた人事はいない

2022年12月15日付の日本経済新聞でも「職場がホワイトすぎて辞めたい 若手、成長できず失望」という記事が出て、大いに話題になった。仕事の「ゆるさ」に失望して離職する若手社会人が増えている、ということだ。

金間大介『静かに退職する若者たち』(PHP)
金間大介『静かに退職する若者たち』(PHP)

人によっては、うらやましくて仕方ない、という声も多く聞かれそうだ。だが、そもそもこういった退職は本当に増えているのだろうか? 本当だとしたら、その心理とはどういったものなのか?

改めて「ゆるブラック」型の退職には、どんな背景があると考えられているのか。例えば、先述の日経新聞では、「長時間労働やハラスメントへの対策を講じる企業が増えたほか、新型コロナウイルス禍で若手に課される仕事の負荷が低下。(中略)成長の機会が奪われていると感じる」若者が増えているということだ。つまり、「もっと仕事がしたいのに何もやらせてくれないので辞めます」と若者が言っているということ⁉

そこで、何人かの人事担当者にこの質問をした。その結果、「はい、そう言われました」という人事担当は今のところゼロだ。なんだか、よくわからない……。が、よくわからない点にこそ重要な何かが隠されているので、深掘りしてみよう。

大卒就職者の退職率は大きく変化していない

企業側としては、せっかくコストをかけて採用した若手社員にすぐ辞められては困る。直属の上司には「若手をケアすべし」という圧がかかっている。だからこそ会社も上司も、ハレモノに触るように必要以上の配慮を重ねる。その結果、「この会社は物足りない」と感じる若者がいても不思議ではない。

ただ、僕が引っかかるのは「成長の機会が奪われていると感じる若者」というくだりだ。今の若者はそんなに成長に貪欲だったか? ついこの前も「出世したくない若者が増加中」という報道が出回っていた気も……。これはいったいどういうことだろうか。ということで、複数のデータを採用しながら、一見して矛盾している若者の深層心理を解きほぐしてみたい。

まずは、実際にどのくらいの若手が退職しているのかについてのデータから(図表1)。本書では主に大卒者を議論の対象としているが、この図の通り、日本における新規大卒就職者の退職率は、大きくは変化していない。今も昔もざっくり「3年で3割」「1年で1割ずつ」だ。規模別で見ると、企業規模が大きくなるほどこの割合は小さくなっていく。

大卒就職者の離職率の推移
大卒就職者の離職率の推移(出所=金間大介『静かに退職する若者たち』)

ちなみに、高卒就職者の離職率はむしろ低下していて、2000年ごろは「3年で5割」だったのが、今は大卒と大差ない状態になっている。