だから政府や地方自治体は、消費喚起策としてこの手のクーポン企画をやりたがるのです。自治体がPayPay割をよく行っているのもその理由です。

しかし、税金で割引した結果、旅行者が増えて宿泊施設が満室となり「よかったよかった」となるかと言えば、そんな単純ではないのです。特に普段から良いサービスを提供し、しっかり付加価値を付け、値段を苦労して引き上げてきた事業者ほどバカをみます。

「GoToトラベル」で発生した宿泊施設の阿鼻叫喚

まず安売りをして何が起こるか。客筋が変わるのです。

「GoToトラベル」では、設備やサービスに投資をしてきた高級宿に、普段は泊まらないような客が押し寄せました。

知り合いの宿では大浴場のアメニティに、オーストラリアの化粧品会社Aesop(イソップ)の高価なソープやボディークリームを置いていたのですが、それらが軒並み盗まれたり、ダイソンのドライヤーが盗まれたりと散々な結果になりました。

大理石のカウンターに設置された美しいアメニティ
写真=iStock.com/whyframestudio
※写真はイメージです

さらに、態度の悪い客が増加して、常連客から「なんであんな人たちが泊まっているのか」「大浴場で一緒になったけど大声をあげていて怖い」というクレームが入る始末です。

その高級宿は、一過性の復興支援・安売りに付き合ったばかりに、普段から真っ当な料金を支払ってくれる常連客を失うリスクまで抱え込むことになりました。

だから値上げをして顧客層を調整するようになったのです。皆がクーポン利用時で普段と変わらない金額に変え、サービス部分や食事をより良くしたりする工夫をするようになったのです。

実際に支払う金額で客筋は大きく変わります。単に儲けたいから値上げをしているだけではないのです。

言いたくないことですが、地獄の沙汰も金次第。安さを求める客にろくな客はいません。だから事業者は客を選別するために金額を設定しています。クーポンが利用できる期間だけでなく、長期的な顧客との関係を考えた上で合理的に判断しているのです。

宿泊施設が強いられる「地獄のオペレーション」

「北陸応援割」は来月からスタートします。先立って予約された方の分は「適用しない」となれば、一旦キャンセルして取り直す人が当然出てきます。今のうちに予約枠だけを確保して、振り替えてくれ、と連絡をしてくる客もいるのです。

クーポンは各種細かな手続きがあり、政府から事業者に金が届くまで時間がかかることが多くあります。この間の資金繰りの問題も発生します。震災で客が減って苦しい中で、さらにキャンペーンをやったらキャッシュフローがさらに悪化するという笑えない事態になることもあるのです。

だからこそ、事業者は価格をある程度引き上げ、資金を回さなければならないのです。