さらに、事業者は細かな書類を作成して、政府・自治体の窓口に提出しなければなりません。「GoToトラベル」の終了後に実施された「地域割」でも、利用者個人の証明書、自筆の承諾書などを保存し、それらを付けた申請書を提出しなければクーポンの現金化はできません。この手の税金クーポンは、楽して現金化できるものではないのです。

事業者側は資金繰りの手当てをすることで資金調達コストとして借入金の手続きコスト、さらに金利を支払い、クーポン現金化のための手続きコストという従業員工数まで投入しなくてはならないのです。

だから元々の値段でクーポン部分を値引きした金額だけでやったら、事業者側が損をするのです。そもそも値上げをしなければいけない合理的理由があるのです。

クーポン適用外の宿泊施設へのクレーマーたちの猛攻

このような事情から、あえて「クーポン適用外」になることを決断する施設が出てきます。私が関わる施設では、この手のクーポンに頼らず、常連客でしっかり回していこうと決めたところがありました。

しかし、そうすると今度はお客さんから電話がかかってくるのです。「なんでお前の施設は適用除外されているんだ」という恐怖のクレームです。安さだけを求める人たちは恐ろしいのです。値上げをしたら文句をいい、クーポンに頼らず頑張ろうとしても「クーポンを使わせろ」とオラオラ言っていくるのです。

呼び出しチャイムを鳴らす手元
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いいですか、だから宿泊施設は値上げをするんです。便乗値上げがダメなのではなく、別にやってもいいんです。それで客が来なくても宿の責任になるだけです。ただそれだけの話。客には泊まらない権利があります。泊まらない限りクーポンという税金は、その宿に支払われないのですから国の負担は増えません。

こういうところは市場メカニズムに委ねるべきで、いちいち行政が介入して、元の値段以上に引き上げるな、と被災地に安売りを強要するようなことはやめるべきなのです。

応援特需も活かしてさらに稼いでください、とするのが自然なのです。

地方の観光業に必要なのは「高付加価値化」

地方の観光業はすでに安売りをしています。安月給で人を雇っていたら従業員が集まらない、人手不足が直撃している産業です。

だからこそ観光庁は、観光産業の稼ぐ力を強化するための「高付加価値化事業」を推進しています。客数ばかりを追うのではなく、客単価を引き上げて少人数でも稼げる産業になることを目指しているのです。

その施策と真逆のことをなぜ被災地に要求するのでしょうか。

被災地の応援消費・高付加価値など、中長期的に見て宿泊施設の経営改善につながる政策シナリオが大切です。せっかくなのですから、単なる安売りではなく、それぞれが創意工夫をして普段はできないようなサービスを作り出す機会にしてもらうのが合理的です。