自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる事件で、東京地検特捜部は派閥幹部らの立件を見送った。評論家の八幡和郎さんは「そもそも今回の事件は悪質とはいえ立件が難しかったのに、検察はさも大物を逮捕できるかのようにマスコミにリークし、政治に介入したのではないか。日本の司法の前近代性は、経済人にも気まぐれに襲いかかるし、国際的にも評判が悪い。フェアな巨悪への挑戦の方法を模索すべきだ」という――。
検察庁
検察庁(写真=F.Adler/PD-self/Wikimedia Commons

「大物政治家の逮捕」をちらつかせていたが…

清和政策研究会(安倍派)など自民党派閥のパーティー券事件は、政治的には大激震となったが、刑事事件としては、竜頭蛇尾に終わった。

逮捕された国会議員は、池田佳隆衆議院議員だけで、大野泰正参議院議員が在宅起訴、谷川弥一衆議院議員が略式起訴(罰金100万円、公民権停止3年)。派閥の事務総長経験のある松野博一氏や西村康稔氏のほか、萩生田光一氏ら安倍派幹部は不起訴で無罪放免となった。

大物政治家の逮捕を期待していた国民は怒っているだろう。しかし、今回の事件は過去の例からして立件は難しかったのに、検察が大物政治家の逮捕がありそうだとマスコミにリークして、閣僚辞任など引き出して政治に介入した印象がある。

安倍派の事務総長が党の幹事長のようなポストだというイメージも流布されたが、実際は権限が弱く、これまで重要ポストだとは考えられていなかったので唐突だった。

本丸・森喜朗氏にも手が出せなかった

検察が狙ったのは、過去に派閥会長を務め、裏金システムの創始者ともいわれる森喜朗元首相で、東京五輪・パラリンピックを巡る汚職事件で組織委員会の高橋治之元理事の口が堅く、疑惑に迫れなかったリベンジだともいわれた。

そのせいか、森氏の信任が厚い萩生田光一氏は事務総長でもなかったのに厳しく追及され、側近の池田佳隆氏が逮捕された。検察の手がそれ以上には進まなかったのは、能登半島地震で石川県の政治家(森氏)には遠慮したからではないか、とかまことしやかに囁かれている。

そもそも今回のパーティー券疑惑は、ロッキードやリクルートといった汚職事件と同等の大事件ではありえない。たしかに、腐敗防止のための予防措置である政治資金収支報告書への掲載を大量にさぼったのは、いい加減にもほどがある。しかし、ロッキードやリクルートのように汚い資金のやりとりがあったわけではないし税金の不正使用でもない。

安倍政権時代にはモリカケ問題で、昭恵夫人にひっかけて「アッキード」といわれたが、最悪の想像をしても元首相側は金銭も便宜も受けていなかった。

今回も安倍派つぶしを狙う人たちが張り切っていたが、安倍氏は当選2回で官房副長官に抜擢され、その後、常に政府や党の要職にあったため、清和会の運営に関わったことは2021年の会長就任以前にはほとんどなかった。

また、2012年の再登板時には、清和会は当時の派閥会長だった町村信孝氏を推すなど、派閥との関係は希薄だ。しかも、ジャーナリストの岩田明子氏が最初に明かし、その後広く認められているように、会長就任時にキックバックに気づいて、止めるように指示したという。