世界的企業のトップが受けたひどい待遇

金融商品取引法は粉飾決算の防止が目的で、報酬について日本人役員が立件された例はない。「法廷ではなく役員会で扱う問題」「(ゴーンの意見陳述は)検察が明らかにしている証拠よりも説得的」と、海外では“外国人だから逮捕された”と見られている。

ゴーン氏が受けた待遇は「世界的企業のトップにではなく、暴力団の構成員にふさわしいもの」であり、「否認すれば初公判まで家族にも会えず拘禁」「3回もの逮捕」「長期勾留」「弁護士の同席なしの取り調べ」「弁護人以外との接見禁止」「通訳を選任できない」「暖房もろくにない畳の部屋」といった点が問題視された。省庁やマスコミも協力して、日本人役員によるクーデターを助けたとしか見えない。

中国との合弁企業の日本人社長が、現地の人が問われたこともない罪状で逮捕されたら、どれだけ怒るだろうか。その日本人社長が誰も傷つけることなく、日本に脱出したら、英雄かどうかは別として、中国に引き渡すべきだと政府に言うのだろうか?

まして、「日本経済の救世主」といわれた人物がこうして逮捕されたら、外国人の有能なビジネスマンは日本では怖くて仕事することを躊躇する。

ルノー・日産自動車・三菱自動車の会長を兼務し、カリスマ経営者として知られたカルロス・ゴーン氏
ルノー・日産自動車・三菱自動車の会長を兼務し、カリスマ経営者として知られたカルロス・ゴーン氏[写真=©World Economic Forum(Photo Matthew Jordaan)/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons

フランスなら逮捕されても非人道的な目に遭わない

「フランスもゴーン氏に逮捕状を出したから、日本の検察の正しさが証明された」という主張もあるが、フランスではフリンジ・ベネフィット(企業が従業員に対して提供する賃金以外の、給付・サービスの総称)が厳しく制限されているので、犯罪の基準が違う。東京五輪・パラリンピックの誘致に絡み、フランスでは日本オリンピック委員会(JOC)元会長の竹田恒和氏に贈賄の嫌疑が掛けられているのもそのためだが、そうしたことはよくある。

また、レバノンにいるゴーン氏がフランスに行って逮捕されたとしても、日本の人質司法のような非人道的な目に遭わないだろう。

すぐ釈放されるし、取り調べに弁護士が同席でき、職にも留まれる。クリスティーヌ・ラガルド元財務相は、職権乱用疑惑で捜査されていたのにIMF専務理事となり、職務不履行罪の有罪判決を受けても微罪だとして欧州中央銀行の総裁になっている。米国のトランプ元大統領も訴追されても政治活動を続けている。

ゴーン氏の共犯だったグレッグ・ケリー被告は、金融商品取引法違反罪で執行猶予付きの有罪判決を受けたが、起訴された大部分の嫌疑については一審無罪だった。米国からの司法批判を心配して、実質「無罪」に近い扱いにした印象で、エマニュエル駐日米国大使は、「法的手続きが終了し、ケリー夫妻が帰国できることに安堵あんどしている」、地元テネシー州選出の上院議員のハガティ前駐日大使は、「米経済界では考えられない状況にさらされてきた」と英雄のように迎えた。