専門外の分野へ寄り道することで得る経験を

ところが、研究や臨床一筋で、医大の学長や大病院の院長になった人ほど、メディアやほかの分野で楽しく活躍することができなかったりします。

なぜなら、学長や院長になるための専門的な医療知識を得ることだけを目指して、それ以外のことにはいっさい目もくれずに来たからです。つまり、わかりやすく本を書くスキルや、老人や子どもにも興味を持たれる話し方のコツを持っていません。

そういう方がメディアから、「60代の人向けに、3分でできるお手軽アンチエイジング法を教えてください!」などといったコメントを求められたら?

きっと、難解な専門用語が山盛りのコメントをするでしょう。そして視聴者は理解できないし面白くもないから、すぐにオファーが来なくなります。

また、本業一筋で定年を迎えてしまった学者が、さあ、明日から仕事がない、「じゃあ、本でも書こうか」と思い立ったとしても、その原稿は、読むそばからいびきをかいて寝てしまう人が続出するであろう難しい話ばかりでしょう。

どの出版社からも出版を断られ、やがて直面する厳しい現実を嘆いて、うつになってしまうのです。うつになることを免れたとしても、誰からも相手にされず、毎日ぶつくさ文句を言う、不満ばかりの老後を迎えるはめになるわけです。

どうですか? 遊び心を持って、いろいろなことにチャレンジし、専門外の分野へ寄り道することで得る経験の大切さを、ご理解いただけたでしょうか。

もちろん、今からでも遅くはありません。

さあ、今日はこれから何を楽しみましょうか? 今まで目を向けなかった新しいことに遊び心を持って臨みましょう。忙しい毎日になりますよ。

この道一筋で来た人が今から徹底して練習すべき生活態度

先の例に挙げた医学者と同じようなことは、おそらく一般の会社勤めをしてきた多くの人にもいえるでしょう。

その昔は終身雇用が当たり前でしたから、今、「高齢者」と呼ばれる年齢にさしかかっている方の中には、ずっと一つの会社に勤め続け、一つの仕事をひたすらやり続けた方も多いでしょう。

決して仕事の虫だったわけではなく、仕事を終えればお酒も飲んだでしょうし、休日にはレジャーも楽しんだでしょう。それでも、その自由な時間を使って、自分の仕事とは関係のない知識を身につけ、技術を学ぶような機会は、なかなかつくることはなかったことと思います。

そして現在、いつまでも会社に面倒を見てもらえる時代が終わり、経済的には定年後の再就職を求められる時代になってしまった……。

こんなご時世に、一つの会社で、一つの仕事や一つの分野しか経験してこなかった人は、自分を生かせる納得できるような仕事を見つけられなくなっているでしょう。仕事の選択肢が少ないうえに、人間関係も会社一筋で培った狭い人脈しかないので、新しいことやワクワクすることに巡り合う機会にも恵まれなくなっています。

そうした人は、どうしたら人生の後半から、楽しめる趣味や心満たされる人間関係を持つことができるのでしょう?

あるいは、出世やお金のために、人を蹴落とすことを当然と考えてきた人が、遊び心を持って、周りの人と楽しく関われるようになるには?

いきなり遊び心を持った生き方に変えろと言われても、すぐに人生を一変させることは簡単ではないでしょう。

それでも、散歩しているときに見つけた新しいお店に意を決して入ってみることや郵便の配達をしてくれた人とちょっと雑談をしてみることなどは、できるでしょう。

私は、美術館とか百貨店が開催している美術展や催し物によく行きますが、それだけでも、単調な日々がずいぶんと格調高くなったように感じられるものです。

また、友人と食事をする際に、いつも同性ばかりで集まっているならば、たまには異性を何人か交えたり、話すと楽しそうな仲間を新たに誘ったり、その道に詳しい人に、ちょっとレクチャーらしきものをしてもらったりしてみてください。

乾杯をする二組のシニアカップル
写真=iStock.com/TAGSTOCK1
※写真はイメージです

こうした小さな工夫で、マンネリ気味だった日常が一気に遊び心にあふれた新鮮な彩を放つものに変わるのです。私も、こうした工夫や変化を求めることで、いまだに新しいつながりや、思わず笑ってしまう面白い出来事に事欠きません。

井戸端会議だろうが、散歩での出会いだろうが、これまで無駄と思ってやってこなかったことを少しだけ実践してみることから、遊び心はどんどん育まれていきます。

こうして遊び心を育んでいった結果、老後の長い人生を豊かにし、健康や素敵な人間関係を手にした実例をご紹介しましょう。