「経済的要因」がミスマッチを生んでいる

そもそもなぜ人々は結婚を遅らせたり、またはそもそも結婚しないようになってきているのだろうか。おそらく一番適切な回答は「さまざまな理由が複合的に重なってこうなった」というものだ。

若者の性行動が不活発化しているという報告もあり、これが結婚行動の後退につながっている可能性がある(*4)。そもそも日本などの東アジア社会では、欧米社会ほど強いカップル文化がなく、これが自由恋愛の時代においてカップル形成にネガティブに影響している可能性がある。

この中で、研究者のあいだで一つの有力な要因として考えられているのは、特に経済的要因に起因するミスマッチである。結婚におけるミスマッチとは、要するに「条件が合う相手に巡り合わない」ことだ。近年では恋愛婚がほとんどであるとはいえ、少なくとも日本では「愛さえあれば結婚する」という状況にはなっていない。相手との相性のほか、やはり仕事や収入が気になるものである。

日本では比較的、性別分業、すなわち「男性が稼ぎ、女性が家のことをする」という分業体制が根強く存在してきたため、特に女性は結婚相手の男性の仕事や稼ぎを気にする度合いが強かった。

(*4)林雄亮、石川由香里、加藤秀一編(2022)『若者の性の現在地:青少年の性行動全国調査と複合的アプローチから考える』(勁草書房)

「下位婚」を選ばない大卒女性

では、現在に至る少子化が進行してきた中で、女性は結婚に際してどのような選択をしてきたのだろうか。

図表2は、1960年代から2010年代の60年間にかけて、それぞれの年代で女性(16〜39歳)が行ってきた結婚に関する選択を女性の学歴別に見た数値である。

選択肢は三つに分けている。「未婚」は結婚しないという選択である。ここで「上位婚」とは、規模の大きな企業の正社員といった、一般的に好条件の相手との結婚を指す。「下位婚」とはそういった男性以外との結婚である(*5)。たとえばグラフの一番左上の数字「13」というのは、1960年代に高卒の女性は平均して13%「上位婚」を行った、ということを示している(気をつけてほしいが、グラフは70%から始まっている)。全体的に未婚継続という選択肢の割合が増加傾向にあったこともわかるだろう。

注目に値するのは、大卒女性である。ここでは、「下位婚」の選択割合はずっと1%程度であった。この間、増加傾向にあった大卒女性は、徹底して「下位婚」を拒否してきたことがわかる。

(*5)女性が自分より地位が上、同じくらい、下の男性と結婚することをそれぞれ女性上昇婚、同類婚、女性下降婚と言うことがあるが、ここでの上位婚と下位婚の概念とは異なる。上位婚と下位婚の分類についての詳細は、以下の文献を参照。筒井淳也(2018)「1960年代以降の日本女性の結婚選択」荒牧草平編『2015年SSM調査報告書2人口・家族』61│76頁、2015年SSM調査研究会。簡単に言えば、ここでは上位婚とはたとえば大規模企業の正規雇用、下位婚とはそれ以外を指す。また、同様の分析については以下の論文も参照。
Raymo, James M., and Miho Iwasawa (2005) “Marriage Market Mismatches in Japan: An Alternative View of the Relationship between Women’s Education and Marriage” American Sociological Review, 70(5):801-22.