「いずれ結婚する」と考えている人は減っている

さきほどの例は極端だが、よい条件があったとしても結婚はしたくないと考えている人こそが「結婚はしたくない」人だ、という考え方もありうる。この基準を採用すれば、「結婚したくない」と考えている人の割合はかなり少なくなるのではないだろうか。

このような基準で行われた調査は、日本では私が知る限り存在しない。なぜなら、「よい条件」をどのように設定するかで回答が変わるため、再現性の小さいデータになってしまうからである。何がよい条件なのかは時代によっても変化するため、時代を通じた比較も難しくなってしまう(*3)

いずれにしろ、「結婚したくない」という選択肢と「いずれは結婚したい」という選択肢は、考えられている以上に違いが曖昧で、重なりがある。そのことを念頭に置いた上でだが、結婚意向の推移を見てみよう。

図表1は、20代前半、20代後半、30代前半の三つの年齢階級について、男女の結婚意向をグラフにしたものだ。具体的には、未婚者を対象とした調査において「いずれ結婚するつもり」と回答した人の割合を示している。データからは、30代前半の女性を除けば、いずれの性別・年齢階級においても基本的には下落傾向であることが読み取れる。

(*3)意識(規範や意欲)が条件に左右されることを踏まえた調査研究の一例として、以下を挙げておく。
Robbins, Blaine G., Aimée Dechter, and Sabino Kornrich (2022) “Assessing the Deinstitutionalization of Marriage Thesis: An Experimental Test” American Sociological Review,87(2):237-74.

2015年までは結婚意欲が高かったが…

ただ、詳細に見てみれば、1982年(初回調査年)から1997年までは下落、そこから2015年までは安定、最新調査年(2021年)では顕著に下落、という傾向が見て取れる。

2021年調査では結婚意向が下落しているが、報告書では「今回、性別や年齢、生活スタイルの違いを問わず減少がみられたことから(中略)、調査を行った時期の特殊な社会状況が、幅広い世代の意識に影響した可能性も示唆される」とされている(国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査結果の概要」より)。

このように基本的には下落傾向が観察できるものの、少なくとも2015年までは結婚意欲は8割を上回っていたことにも留意すべきである。この間、それでも未婚化・晩婚化は進んできたわけで、多くの人は「結婚はしたいが望む結婚ができないのでしなかったのだ」ということになる。

結婚意向が下落した局面も多く見られるが、この下落の意味はデータからはわからない。次に見ていくように、条件がかなわないために結婚をリアルに感じられなくなってきた、という可能性も指摘できる。