なぜ「21秒」なのか

臓器の大きさは、からだの大きさに比例します。もちろん、尿を溜める膀胱も、犬よりライオン、ライオンより象と、からだの大きな動物のほうが大きくつくられています。それだけ考えると、からだの大きな動物のほうが排尿に時間がかかりそうです。

ライオン
写真=iStock.com/WLDavies
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ところが、からだの大きな動物は膀胱が大きいぶん、尿道も太くつくられています。いってみれば、大きな貯水タンクに、大きな蛇口がついているようなものですから、排尿時間も、だいたい一致するというわけです。

それにしても、なぜ「約21秒」なのでしょう。生存に有利な形質をもったものが生き残っていくという、「ダーウィンの自然淘汰とうた論」に従えば、この秒数には、何かしら生き残りの秘密が隠されているように思えてなりません。じつは、膀胱という臓器は哺乳類にしかありません。そして哺乳類は、肉食動物も草食動物も、なるべく、尿の臭いによって自分の存在を知られないほうが、生存には有利です。

そう考えると、尿を一定量、溜められる膀胱という臓器ができたのは、自分の存在を知らせてしまう尿を、頻繁に出さずに済ませるためかもしれません。かといって、溜まった尿を出すのに時間がかかりすぎると、それはそれで生存には不利になります。

年を取るにつれて排尿時間は長くなる

肉食か草食かにかかわらず、「つねに臨戦態勢であること」は生き残りの鉄則です。

膀胱ができたことで排尿の回数は減っても、何十秒も立ち止まって排尿しなければいけないとしたら、どうなるでしょう。おそらく肉食動物は、獲物をつかまえるチャンスが減ってしまうでしょうし、草食動物は捕食される危険が高まるでしょう。というわけで、排尿の回数を減らし、なおかつ、生存に不利にならない程度の時間で尿を出す、という絶妙な合致点が「約21秒」ということかもしれないのです。

膀胱が進化した理由は、じつはいまだに明らかではなく、前述の「約21秒の排尿=野生界の生存の法則」というのも想像の域を出ません。ただ、私たち人間に限って考えると、「約21秒」というのは、単なるトリビア的なおもしろい話では済まされません。なぜなら、排尿時間は、「おしっこ年齢」の重要なバロメーターになるからです。

年齢を重ねていくと、膀胱の筋力が落ちる、加えて男性だと前立腺肥大症になる、といったいくつかの要因によって、排尿時間は長くなる傾向があります。わたしと旭川医大の松本成史せいじ教授の研究チームが、21歳から94歳の男女に対して行った調査でも、排尿時間は生殖年齢内で21秒前後と、先ほど紹介した研究を裏づけています。

しかし、年齢が上がるにつれて、排尿時間は長くなるという傾向が見られました。動物は生殖年齢を過ぎたあとに長生きしないため、これは人間にだけ見られる現象でしょう。