ごはんやパンは普通に食べていい
「ね、だからごはんを食べよう! タンパク質はたまごでも、豆腐でも、お刺身でも、1品でいいから、ごはんを食べよう。○○さん夫妻なら、低脂肪にこだわることはないし、極端に脂質を増やす必要もない。とにかく、ごはんやパンを普通に食べて、毎日の食事がもっとおいしくなるように変えてみましょう」
私がそう説明すると、彼女は目に涙を浮かべて「ごはんとお刺身、一緒に食べたらおいしいですよね。ごはんを食べたかったです」と言い、うれしそうに微笑みました。
食生活を改めれば、おおむね3カ月でコンディションは変わっていきます。
実は、医療や介護の現場でも、同様の問題が起きていることがあります。
あるとき、大学で学生とともに、施設のひと月分の食事内容と栄養についてチェックする機会がありました。
おかず(主菜と副菜)は同じ献立で、主食は、それぞれ患者さんの噛む力、飲み込む力に合わせ、食べやすい状態に調整したものでした。
「普通に炊いたごはんの通常の1人前の120g」「普通に炊いたごはんの少なめ60g」「ごはんをおかゆにしたペースト状にしたごはん60g」、「完全なゼリー状のごはん60g」の4パターン。
栄養を補うなら、タンパク質と炭水化物もしっかりと
この食事は、一見、十分な食事に見えますが、栄養価を調べてみると、これらの4パターンの食事は、タンパク質や脂質に大きな差はなかったものの、普通に炊いた一人前120gのごはん以外は、炭水化物だけが極端に少ないことがわかりました。ごはんをおかゆにすると、カロリーが減ってしまいますが、食べやすさを優先して水分を多めにした食形態では、1食の炭水化物、つまり「糖質」が足りていない状態になってしまっていたのです。
施設の職員たちは、「おやつにタンパク質を足しましょうか?」と言いましたが、足りなかったのは、タンパク質ではなくて、炭水化物だったのです。
脂質やタンパク質は十分。しかし、炭水化物(糖質)が足りていないと、タンパク質や脂質がエネルギーに回され、結果としてタンパク質が不足してしまいます。
医療や介護の専門職も「高齢者のタンパク質不足」にばかりに目が向いていることがあります。栄養を補うなら、タンパク質ではなく炭水化物を補うのが早道。つまり、おやつ(補食)はおせんべいや、冷凍のホットケーキと牛乳、バナナにヨーグルトを添えたものなどがいいのです。
前項の夫人は、「行政から配布されるパンフレットにも、タンパク質、タンパク質と書いてあったから」と言っていました。だから「がんばってタンパク質を食べている」と。行政の保健担当者は「食べすぎ」をまねくつもりはないでしょうが、誤解のモトになってしまっているのです。