「水分補給」はどうするのが正解なのか。管理栄養士で大妻女子大学家政学部の川口美喜子教授は「こまめな水分補給がよく推奨されているが、水の飲みすぎは下痢を起こすなどむしろ健康に悪い。高齢者の脱水予防は味噌汁があれば十分だ」という――。

※本稿は、川口美喜子『100年栄養』(サンマーク出版)の一部を再編集してお届けします。

水が入っているたくさんのペットボトル
写真=iStock.com/whitewish
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「こまめな水分補給」をしすぎていませんか?

年を重ねると、食べることと同じくらい、水分をきちんととることは健康に必須です。春から秋にかけて、とくに熱中症になる危険がある時期には、連日、テレビのニュースで「こまめな水分補給」を呼びかけています。

高齢者は「のどが渇いた」と感じる反応も鈍るので、「のどが渇いていなくても、のどが渇く前に水を飲みましょう」という。2Lのペットボトルを身近に置いておき、「1日1本は飲みきりましょう」などとアドバイスしていますね。

確かに、熱中症予防のために水分補給が大事なこと、高齢者の反応が鈍ることなど、間違いではありません。たとえば介護認定を受けている人などは、熱中症にならないよう、周囲もよく気を配らなければならない。でも、それはすべての高齢の人に当てはまることではありません。

ペットボトルを常備して飲んでいて、毎日下痢をしている人。胃酸が薄まり、ムカムカして食欲減退、食事量の低下をまねいている人。下半身がむくんだり、全身の倦怠けんたい感が強くなったり、水の飲みすぎで体調を崩している高齢者も多くなっています。

水のペットボトルを常に置いておく必要はない

ある人は終日、エアコンが効いた家から出ることもなく、家事や趣味の手芸、テレビを見て過ごす。ほとんど汗をかくこともない。そんな日も、「2L飲まなくちゃ」と強迫観念にかられて、飲んでいると聞きました。明らかに必要以上に飲んでいます。

こうなってしまうと、健康情報というより“呪い”ではありませんか。

臨機応変。そう考えなければ、体がすこやかさを保とうとする力がかえって弱ってしまうのではないか、私はそんなふうに思います。

臨機応変に対処するには、「高齢者はのどが渇いたと感じる反応も鈍る」を真に受ける前に、自分や家族の反応は鈍っているか、「?」をもって見ることです。

水を飲む前、トイレの中で、「のど渇いているかな」「(下痢気味なのは)水分のとりすぎかな」と自分の体と飲食について「問う」ことが大事です。

実際に反応がやや鈍っていると思ったなら、確かに工夫が必要ですね。しかし、それでも私は2Lのペットボトルを身近に置いておくことには反対です。

「これを飲みきらなければ」と思うと、負担になるばかりで、おいしく飲めないと思うからです。のどが渇いているときに飲む冷たい水のおいしさ、のどごし、爽快感を、生涯、味わい続けたいのです。