人付き合いが苦手な人は、どこに問題があるのか。明治大学教授の齋藤孝さんは「相手との心理的距離間を縮めるにはテンポの良さが大事だ。長尺のYouTube動画のような話し方では相手が途中で脱落してしまう」という――。

※本稿は、齋藤孝『上手に距離を取る技術』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

距離をとってお互いを見る若い男女
写真=iStock.com/qunamax
※写真はイメージです

「適切な人との距離感」がわからない人が増えている

人と人との社会的な交わりの中で、お互いに上手に距離を取ることができれば、悩みの多くは解消します。そのためには相手ごとにふさわしい距離感を見極め、ときに間を取ることが大切ですが、適切な距離感を測ることは、歳をとって社会経験を重ねても、なかなか難しいものです。

私は30年ほど大学で教鞭をとり学生と接してきましたが、年々、若い人は他人とのつきあいで疲れやすくなっているように感じます。適当な距離の取り方がわからない人が増えているのです。

プライベートでも仕事でも、相手が距離を詰めてくると嫌気がさしてしまったり、雑談でさえ疲れてしまったり。人間関係をうまく構築しようと意識するあまりストレスが大きくなり、他人とうまくやっていくこと自体が、この時代には難しい課題となってしまったようです。

この問題を考え詰め、人間関係を最重要課題としてしまうと、自分の思う距離感と、他人が求める距離感との間に乖離かいりが生じ、どんどん息苦しくなってしまいます。他人と適度な距離を取りたいと思うことでまた疲れてしまう、負のループに入りがちです。家族でも他人でも、距離は単に近ければよいというものでもありません。少し「間」を空けることによって、人間関係が改善することもあるのです。

日本人は「絶妙な間」を大切にしてきた

日本人は昔から、自分と他者、自分と世界との距離を意識し、絶妙な距離感や心地よい間を求めてきました。間が悪い、間延びする、間が抜ける……。日本語には、間にまつわる言い回しが多くあります。

間とは、時間的、空間的な間隔のこと。腕の良いお笑い芸人は、間の感覚が優れています。空間的なスタンスや時間的な間を常に意識して芸を繰り出し、観客の気持ちをぐっとつかんで、一気に距離感を縮めます。こういう技術に人の評価が集まる一方、自分の領域に他人が入ってくると心を閉じてしまう人も増え、人が心のシャッターを下ろす速度も急激に速まっています。

現代は多くの人にとって、良い間が取りづらい状況にあります。SNSやオンラインツールが急速に普及し、学校も職場環境も少しずつとはいえ、グローバルになったことで、人間関係は大きく広がりました。会社や学校にとらわれない、自由な働き方や学び方も可能になり、人と人との距離感は、マナー感覚で語られるように変化してきました。