このささやかなギフトに、フォードさんはいたく感激した。2022年5月に、自身のInstagram、TikTokに贈られたギフトの映像をアップロードし、「感謝でいっぱい」の文字を添えている。映像では、まじまじとグッズを見つめ、ひとつひとつ確かめるように手に取り、最後にカメラに向けて両手でグッドサインを作るフォードさんの姿が印象的だ。
米公共放送のNPRに対しフォードさんは、「全員が何かをもらえるわけではないので、もらえて嬉しかった」と振り返っている。米FOXニュースは、フォードさんの謙虚な反応を紹介。とても感謝しており、ほとんど毎日のようにカップとバッグを使っていると報じた。
「27年間休みなく働いたのに」とコメント欄は大荒れ
だが、謙虚に喜ぶフォードさんと対照的に、ネットにはフォードさんへの待遇を不当とする声が相次いだ。
「店舗がこんな処遇をしているのは悲しいが、彼はそれでも陽気だ」とあくまで前向きなフォードさんに同情するコメントもある。しかし、「27年間休みなく働いたのに……彼自身のバーガーキングのフランチャイズ店を与えられてしかるべき」など、あまりに見返りが貧相であるとのコメントが多く寄せられた。怒りの矛先は店の対応に向けられ、動画はフォードさんへの同情という文脈で拡散されていった。
英ミラー紙は、「映画のチケットとスターバックスのカップが入った『侮辱的な』贈り物」だと批判。米フォーチュン誌は、約30年間の職場への忠誠心が「パーティーの景品程度にしかならない」と報じた。
もっとも、バーガーキングの広報担当者が米NBCの朝の情報番組「TODAY」に明かしたところによると、ギフトは正確には長期勤務の見返りではなかったという。フォードさんを雇用する食品サービス会社・HMSHostは、短期的な好業績を表彰する報酬プログラムの一環であったと説明している。
「孫に会いたい」父の願いを叶えるために
フォードさんの献身ぶりと報酬が見合っていないとの声が日増しに高まるなか、動いたのが娘のセリーナさんだ。
両親の離婚後、男手ひとつで育ててくれた恩に報いようと、2022年6月、クラウドファンディング・プラットフォーム「GoFundMe」上に寄付を呼び掛けるページを立ち上げた。
そこには、こう綴られている。
「こんにちは、私の名前はセリーナです。あの(話題になった)ビデオに映っているのは、私の父です。彼は27年間この仕事をしていて、そう、一日も休んだことがありません。27年前に私と姉の親権を得たのを機に、シングルファーザーとしてこの仕事を始めました」