その後、家族が増え、父のフォードさんは再婚もしたが、環境が変わってもその職場で働き続けたという。労働組合とすばらしい健康保険があったため、そのおかげで4人の娘たちは全員医療保険に加入し、高校と大学を卒業することができた――とセリーナさんはバーガーキングへの感謝も綴っている。

そのうえでセリーナさんは、「父は若く見えますが、定年を間近に控えています。いま退職すると退職金を棒に振りかねないため、そこで働き続けているのです」と、働き続けることしかできない父親の現状を訴えた。

「私たちは決してお金を要求しているわけではないし、父もお金を期待しているわけではありません。けれど、もし誰か父を祝福したいと思う人がいるのだとすれば……、父は孫たちに会いに行きたいと思っているのです」と言及。飛行機のチケットを買い、できるなら孫の顔を見に行きたいというフォードさんのささやかな望みを明かした。

当初の目標額は200ドル(現在のレートで約3万円。以下同)だった。

2022年6月、娘のセリーナさんが立ち上げた寄付ページ
2022年6月、娘のセリーナさんが立ち上げた寄付ページ(GoFundMeより)

寄付額は計6700万円、約15万人が賛同

このキャンペーンは、フォードさんの人生を変える一大イベントに変貌した。

TODAYによると、寄付金は、わずか1週間余りで25万ドル(約3700万円)以上集まった。その後も寄付は絶えず、現在までに14万9000人が賛同。合計額は45万5000ドル(約6700万円)に達した。

マーケット・ウォッチは、全額に対して2.9%の手数料と寄付1件につき0.30ドルを差し引いた後、フォードさんは約43万2000ドル(約6400万円)を受け取ったと報じている。

フォードさんはそもそも、娘が募金ページを立ち上げたことなど露ほども知らなかったという。英デイリー・メール紙は、のちに経緯を知ったフォードさんは多くの寄付と、娘がGoFundMeのページに書いた心のこもったメッセージに圧倒されたと報じている。

「まるで、誰も信じもせず、それゆえに誰も書くことさえできない、それはそれは美しい脚本のような出来事でした」

飛行機に乗って孫の顔を見に行くという願いは、もちろん叶った。2023年4月、セリーナさんとともにテキサスを訪れ、3人の孫の顔を見ることができた。情報番組のTODAYがこの様子を取り上げている。フォードさんはこのためバーガーキングの仕事を1日だけ休んだが、職場で異を唱える仲間などいなかったはずだ。

「アメリカや全世界が乗せてくれた、美しい搭乗体験でした」とフォードさんは振り返る。