空き家はなぜ放置されてしまうのか。NHKスペシャル取材班は「相続したものの、家への思い入れが障壁になって処分を決断できずにいる人は多い。時間がたつほど管理も行き届かなくなる」という――。
※本稿は、NHKスペシャル取材班『老いる日本の住まい 急増する空き家と老朽マンションの脅威』(マガジンハウス新書)の一部を再編集したものです。
どうするか決められないまま空き家を維持してきた
空き家の取得経緯として最も多いのは「相続」で54.6%を占める。相続からどんな経緯をたどって“なんとなく空き家”になるのか、詳しく知りたいと考えていたある日、取材で接点のできた不動産会社から「築100年の空き家を相続して困っている人がいる」という話が舞い込んだ。解決に向けて自ら動いており、番組に協力してもいいと言ってくれていると聞き、すぐさま連絡を取って会うことになった。
待ち合わせ場所にやってきたのは筑前賢一さん。妻に先立たれて子どもはおらず、現在は一人暮らしだという。66歳になった今は勤めていた会社でシニア社員として働いている(年齢などは取材当時。以下同)。スーツ姿にビジネスバッグを提げた、あえていうならきちんとした身なりの“ごく普通”の男性だった。
「どうするかわからない状態で維持していて……そのままずるずる来ている感じですね」