2028年にテレビ広告市場を「リテールメディア」が超えると予測されている。参入するうえで、比較的ハードルが低いのが店舗内に設置したデジタルサイネージを活用する方法だ。セブン&アイ・ホールディングスの望月洋志さんと日経クロストレンドの中村勇介さんの共著『小売り広告の新市場 リテールメディア』(日経BP)より、ファミリーマートの最新事例を紹介する――。
コカ・コーラ3種とファミチキのセットで100円を割引くキャンペーンを告知するデジタルサイネージの動画とアプリ「ファミペイ」内のバナー広告(右下)
コカ・コーラ3種とファミチキのセットで100円を割引くキャンペーンを告知するデジタルサイネージの動画とアプリ「ファミペイ」内のバナー広告(右下)(出典=『小売り広告の新市場 リテールメディア』)

ファミマが進める「店舗のメディア化」

小売企業の店舗は販売促進を目指したポスターの掲示や棚に設置したPOPなど、もともとメディアとしての側面を持っていた。これをさらに推し進めるのがデジタルサイネージの活用である。ここに強力に投資をしているのがコンビニエンスストア大手のファミリーマートだ。店舗に設置したデジタルサイネージ「FamilyMartVision(ファミリーマートビジョン)」を軸に、“店舗のメディア化”を推し進めている。

ファミマは2019年以降、この領域へ集中的に投資を続けてきた。19年7月にバーコード決済を組み込んだ自社アプリ「ファミペイ」のサービスを開始したファミマデジタルワン(東京・港)に約200億円、購買データなどに基づいてデジタル広告を配信するデータ・ワン(東京・千代田、20年10月設立)に約50億円、ファミマ各店へのデジタルサイネージの設置とコンテンツ配信を手掛けるゲート・ワン(東京・港、21年9月設立)に約200億円と、「3年間で合わせて500億円近い金額を、他社に先駆けて投じた」(ファミリーマートの細見研介社長)。

その結果、ファミペイのダウンロード数は1500万件(23年3月末)に達している。広告配信に利活用できる購買データは、小売業者が抱えるファースト・パーティー・データとしては国内最大級の3000万件超に増えた。FamilyMartVisionを設置した店舗は4600店(23年6月末)となり、年内には1万店に達する予定だ。

そうしてリテールメディア戦略を推し進めるための布石を打ったファミマは、リテールメディアの効果を検証するため、23年に入ってからタッチポイントとなるメディアを連動させた「売り場連動企画(キャンペーン)」を連打している。

サイネージとPOPの連動で売り上げ11%アップ

第1弾は、23年3月21日~4月3日にコカ・コーラ ボトラーズジャパン(CCBJ、東京・港)と実施した日本コカ・コーラ(東京・渋谷)のコーヒー「ジョージア」ブランドの店頭プロモーション。ファミリーマート店頭で展開したPOP中心の販促施策に、デジタルサイネージを連動させて動画を配信した。

その結果、デジタルサイネージ未設置店に比べて設置店のほうが、ジョージアの売り上げが11%増えた。「デジタルサイネージを連動させることで、顧客を購買に向けてさらに踏み込ませることができると分かった」とゲート・ワン取締役COO(最高執行責任者)の速水大剛氏は語る。

デジタルサイネージを連動させるとなぜ売り上げが増えるのか。速水氏はその理由を2つ挙げる。

1つは顧客に商品を認知してもらうだけでなく、「おいしそう」「飲みたい」と思わせるには、「静止画よりも動画のほうが、効果が高いから」(速水氏)。もう1つは、デジタルサイネージに寄せる顧客の期待に関係する。22年8月に実施した調査によれば、顧客が店内のデジタルサイネージで最も見たい内容は「お薦めの商品」についての情報だった。すなわちデジタルサイネージで商品の情報を配信すれば、「店舗全体でこの商品をお薦めしているという印象を多くの顧客が抱き、購買へとつながる可能性が高い」(速水氏)というわけだ。

また、POP中心の販促施策とデジタルサイネージを連動させたことで、キャンペーン対象商品の売り上げ増以外にも、別の大きな効果が3つ確認できたという。