赤坂御用地は、たとえ研究者であっても、自由に入って調査できる場所ではありません。トンボ類の調査は、02年から04年にかけて国立科学博物館動物研究部の斉藤洋一氏らによって初めて行われ、6科24種が確認されました。けれど、前回の調査から約20年の間、研究者による調査の続報はありませんでした。悠仁さまが12年から随時、赤坂御用地のトンボの生息を記録していたことを知ったトンボ研究者たちの喜びは、ひとしおだったでしょう。

12年当時、悠仁さまは6歳でした。「6歳の子供が研究データを取れるわけがない」というのも、今回の研究が本当に悠仁さまによって行われたのかと疑問視する人の主張です。しかし、①12年から16年は論文執筆に使えるデータが少なかったこと、②生態調査は市民科学のテーマとしても馴染み深いことから、特別に奇異なことではないと思われます。

①については、悠仁さまの幼少期は観察の頻度が今よりも少なかったり、例えばトンボの写真を撮ったとしても場所や日時等のデータに不足があったりしたことなどが考えられます。

②については、全面的もしくは部分的に専門家ではない一般市民によって行われる科学研究を「市民科学」と呼びます。これまでも、横浜市での渡り鳥の飛来調査や徳島県でのウミガメの調査などで地域の人たちがデータ収集で活躍し、新たな科学的知見が得られています。データの集め方、記録の仕方について専門家から助言を得ることができれば、その後、周囲の大人の協力を得ながら調査をすることは、子供でもそれほど難しいことではありません。

掲載誌「国立科学博物館研究報告A類(動物学)」とは

トンボの観察と記録はできたとしても、高校生に学術論文が書けるのか、という議論もあります。これについては「掲載誌(国立科学博物館研究報告A類(動物学))ならば十分にあり得る」と言えるでしょう。

科学学術誌には様々な種類があります。たとえば「3大学術誌」と呼ばれる「Nature」「Science」「Cell」は、研究成果には卓越した新奇性が求められ、厳しい査読が行われます。英語で執筆されるので世界中の人が読み、論文掲載がノーベル賞受賞に結びつくこともあります。

1965年にノーベル生理学・医学賞を受賞した「DNAの二重らせん構造の解明」は、53年にNatureに研究成果が掲載されました。2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥名誉所長・教授は、マウスの細胞から多能性幹細胞を作ることに成功し、06年にCellで報告しました。

一方、大学や研究所は、所内の研究者の研究報告の場として定期出版物を発行することがあります。掲載される論文は新奇性があるものというよりは、長年コツコツと調査したものなどがメインとなります。出版物によっては、査読がなかったり、日本語で執筆してもよかったりする場合もあります。

国立科学博物館研究報告A類(動物学)は、同博物館の研究者や共同研究者が学術論文を掲載できる出版物で、査読があるので研究の質には一定の信頼性があります。ただし、論文は日本語で書いてもいいので、敷居は低めです。「トンボ論文」は、悠仁さまが同博物館の清氏らと共同研究した成果なので、この研究報告誌に発表したことは妥当と言えるでしょう。