高齢者は2週間運動しないと筋肉の4分の1を失う

1週間寝たきり状態になると15%の筋力が低下します。3〜5週間では50%の筋力が落ちるといわれます。運動を2週間しないと、高齢者は筋肉の4分の1を失うというデンマークのコペンハーゲン大学の研究もあります。

同研究では、失った体力を取り戻すのに3倍以上の時間を要することも明らかになりました。

寝たきりで心身の活動性が低下することで引き起こされる病的状態を「廃用性症候群」といいます。子どもや若い人にも起こる症状ですが、加齢によって身体機能が低下していると、この症候群になりやすくなります。

骨折などで動けないと、運動量がさらに減って、心身の機能が低下します。どのような機能が低下するか、具体的に紹介しましょう。

筋骨格系

1週間の絶対安静で10〜15%、3〜5週間で50%まで低下します。動かさないために筋肉の萎縮も起こり、2カ月以内に筋肉の量は半分になります。

関節も拘縮し、動かしにくくなったり、可動域が狭くなり、転倒の危険がさらに高まります。

ですから絶対に転倒しないよう注意が必要です。骨折などしたら、寝たきりリスクがぐんと高まります。

循環器系

心臓から送られる1回の血液の量が6〜13%減少し、身体全体に酸素が運ばれにくくなります。心機能が低下し、持久力が落ちるため、疲れやすくなります。ふくらはぎに深部静脈血栓症といった血の塊ができる症状も見られます。

消化器系

活動量が低下するため食欲が低下し、やせやすくなります。引っ越して環境が変わったり、退職して生活スタイルが変わったりなど、さまざまな変化により、食欲減退や便秘症状も見られることがあります。

やせる→転倒しやすくなる→骨折→入院→認知症へ

新型コロナウイルスによる自粛によって、外出や活動の機会が減っている人も多いでしょう。自粛すればウイルスのリスクは避けられるかもしれませんが、別のリスクを招きます。

健康な高齢者の方が10日間安静にしていると、下肢の筋肉量は6.3%減少し、膝伸展筋力は15.6%低下するといわれています。

これは、いわば10日間の安静によって、10歳年をとるのと同じくらいか、それ以上の筋力低下につながります。

下肢の筋力が低下すると、歩幅が小さくなります。片足で自分の体重を支えられないため、ちょこちょことした歩行になり、小さな段差にもつまずきやすくなります。

転倒すれば骨折につながり、入院。認知症になることもあります。

椅子に座るとき、ドスンと座ってしまう人を目にすることがあると思いますが、ドスンの原因は、膝を曲げて体重を支える筋力がなくなっているためです。

私はコロナ禍では患者さんにこんなふうに伝えてきました。

「マスコミやテレビに出ている医者の言葉を信じて自粛していると、歩けなくなりますよ。ソーシャルディスタンスをとっていれば大丈夫ですから、散歩したり、外に出かけてたくさん動いてくださいね」

私がこんなふうにいくらアドバイスしても、感染を恐れて、家族に薬をとりによこしたりなど、コロナを恐れて外出しません。

しかし、コロナにかからなくても、足腰が弱り、筋肉が落ちてやせ、ほかの病気にかかったり、認知症が進んでしまった方もこの時期大勢いらっしゃいます。

確かに散歩したり外に出かけるのが億劫になるのはわかります。私も以前はほとんど歩きませんでした。どこへ行くにも車で移動していました。

しかし、3年前に血糖値が600/dLを超え、糖尿病と診断されたとき、歩くことを始めました。するとどの薬を使っても効かなかった血糖値が、毎日歩くようにしたところ、ぐんぐん下がりました。これには私自身がいちばん驚きました。

「インスリンだけは打たない。食事とお酒も我慢しない。だから歩くことだけはする」

私のこの選択は正解だったのです。