あらゆるツテをたどって次の移籍先を探す

マンダリッチが能活の移籍に設定した移籍金は5億円。

「川口がくれば多額の副収入があるという約束はどうしたのだ」

と、会長は壊れたテープレコーダーのように繰り返し、能活を責めるような発言もありました。ポーツマスのホテルに呼び出された際には怒りを露わにして脅すような発言もありましたが、私も目を背けずににらみ合いながら会長に問いただしました。

「能活が会長の言うような悪い人間だと本当に思っているのか?」

それに対して、「ノー」とだけ返答がありました。

会長も能活の練習に取り組む姿勢や誠実な振る舞いを評価しているが、ただビジネスに徹しているだけなのでした。その返答がそう感じさせた瞬間でした。しかし、私にとってはこの夏の移籍を逃すことは負けに等しかったのです。

翌年1月の市場を待つこともできますが、あと半年経てばフリーになる選手に数億円のお金を払うクラブがあるとは思えません。能活にはこう言いました。

「つらいかもしれないが、ポーツマスの現状には満足しているという顔をしていてほしい」

クラブの冷遇を逆手にとり、「決して川口能活が自分でクラブを出たいわけではない」という印象操作をすることで、ポーツマスには契約切れで移籍金が発生しない状態での放出になるよりは、少しでも移籍金を発生させて回収したいと考えて移籍金を下げてもらうことが肝心だったからです。

でなければ、川口の価値を高く評価し、相応の移籍金を出す用意がある日本のクラブ以外の道は閉ざされてしまいます。

その間、あらゆるツテを使って獲得の可能性があるクラブの担当者にビデオを見てもらいました。移籍金はポーツマスのいう金額の10分の1程度になると申し添えています。いずれにしろ、5億円はありえません。

車で4時間離れた場所から「今から来たら話を聞いてやる」

仮に日本に戻るにしても、その額は後のキャリアに枷になります。出しても3000万円程度、という計算でした。

1年経てば「タダ」で出さざるをえないとなれば、ポーツマスが態度を軟化する可能性は十分にあると踏んでいたからです。

デッドラインまであと10日の8月22日午後、すでに22時を回ったなかでポーツマスから連絡がありました。

「宿泊しているマンチェスターのホテルまで来たら、会って話を聞いてやる」

車
写真=iStock.com/welcomia
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