限界分譲地に安易に手を出さないほうがいい

こうした問題を抱えた分譲地は、もちろんこれからの時代、利用しないに越したことはないとは思う。

だが、中古住宅はたとえ限界分譲地であっても市場に出れば流通し、重大な瑕疵かしを抱えながらも、今も廉価な住宅地として利用され続けているのが実情だ。

この利用と放棄の混在こそが限界分譲地の抱え持つ複雑さであり、価格が下がれば直ちにすべての需要が途絶えるわけではないのが難しいところだ。

野放図な土地利用に対しては、行政による規制や指導ももちろん重要だ。しかし基本的に行政は、事前の開発計画は別として、すでにある民間の土地や資産価値を大きく毀損きそんしかねないような指導は積極的に行わない。

「見て見ぬふりをしている」というと言葉は悪いが、どんな土地でも個人の所有物である以上、行政の立場でその価値を毀損する行動を取るのは難しい。例えば前述した排水の問題は対策に膨大な費用を要し、対処しようにもできないという事情もある。

自治体すらどうすることもできない

例外として、災害に非常に脆弱ぜいじゃくな地域を居住空間として利用させないように誘導する自治体もある。

千葉県いすみ市の佐室地区にある分譲地は、2021年の1年間に、立て続けに襲来した豪雨で2度にわたって近隣の河川が氾濫し、複数の住戸で床上浸水の被害が発生した。

令和3年度の豪雨によって2度の大規模冠水に見舞われた地域。報道では「集落」と呼ばれていたが、実際は民間の分譲地だ。(千葉県いすみ市佐室)
筆者撮影
令和3年度の豪雨によって2度の大規模冠水に見舞われた地域。報道では「集落」と呼ばれていたが、実際は民間の分譲地だ。(千葉県いすみ市佐室)

その地域はもともと低地の水田地帯で、落合川と支流の佐室川の合流地点にある。豪雨時に氾濫することが知られていたため民家は一切なかったのだが、近年になって宅地分譲が行われ、十数戸の家屋が建築されてしまった。

水害時の報道では単に「集落」と報じられていたが、実際には民間業者が販売した分譲地である。

現在、国道からこの分譲地に向かう道の入り口には、いすみ市危機管理課が設置した「令和3年度の落合川流域における浸水被害の概要」と題した看板が設置されている。その看板には浸水被害の模様を撮影した写真のほか、航空写真上に浸水範囲と、床上浸水が発生した家屋の所在地が明記されている。