「この土地に住むべきではない」とは言えない…

この看板は、「この土地に住むべきではない」などと明記しているものでも、居住を制限する権限を持つ性質のものでもない。

いすみ市危機管理課の担当者にお話を伺ったところ、当初は被災地域の宅地利用を制限する条例の制定も考えたのだが、制定までに時間を要し、かつ当該地域の住戸の嵩上げ工事などの補助も要するために断念した。

その代わりに、注意喚起のために看板を設置したとのことだ。

冠水エリアの近隣に掲示されているいすみ市危機管理課の看板。
筆者撮影
冠水エリアの近隣に掲示されているいすみ市危機管理課の看板。

看板の設置にあたって住民との軋轢はなかったのか気になり、その点も聞いてみた。被災の事実は厳然として存在する以上、地域住民からの反発はなく、了承の上設置されたものであるそうだ。

被災後に護岸工事が行われ、今年(令和5年)の豪雨時には、道路の冠水は発生したものの床上浸水にまでは至らず一定の効果を上げている。だが、地形上災害に脆弱な土地であることに変わりはなく、市は緩やかにこの土地からの住民の離脱を目指しているものと思われる。

利用と放棄が入り混じった二極化が進んでいる

しかし裏を返せば、千葉県知事が視察に来るほど重大な災害が起きた土地でさえ、行政権限では、その土地の利用の規制にまで踏み切るのは難しいということでもある。

つまり、地盤沈下や排水などの問題を抱えた「欠陥分譲地」を、現状、行政の力で利用を規制することなどほぼ不可能に近く、その利用はあくまで自己責任で判断しなくてはならない。

物件そのものに重大な問題が発生していれば、仲介業者にも説明義務はある。だが、近隣地域の問題は、果たして仲介業者自身、その事実を把握しているかどうかも疑わしい。

いずれにせよ不動産価格の高騰を受け、千葉の限界分譲地はますます二極化というか、利用と放棄が脈絡もなく入り混じり、先行きが見通せない状況に突入している。その中には、本来使うべきではなかった欠陥造成地も当たり前のように含まれていることは、改めてお伝えしておきたい。

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