経営幹部に経済学者を登用する米国企業

アメリカでは、すでにかなり経済学の博士号保持者の雇用が増えていることは、先にも触れました。

Googleのハル・ヴァリアンの貢献を出すまでもなく、すでに数え切れないほどの経済学博士号保持者が重用され、企業の重要なポジションに就いています。

さらにいえば、アメリカの最先端企業の場合は、経営陣に経済学の博士号を保持しているメンバーが入っているケースも珍しくありません。経営者自身に経済学の知見があったほうが、学知をより深くビジネスに活用していけるはずです。

このように、ビジネスにおける経済学の活用に関しては、現時点では日本のはるか先を走っているアメリカですが、伝統的に経済学が重視されてきたわけではありません。実は、経済学をビジネス活用する機運が高まり、ビジネスサイドから経済学者サイドへと盛んにアプローチされ始めたのは、1990年代〜2000年代でした。

それに経済学者サイドが応えたことでビジネスの成果が上がり始めると、今度は、企業が自社内に経済学者を置くようになり、ようやく今になって、最先端企業では「経済学者とともにビジネスを行うのが当然」となったわけです。

ビジネスパートナーシップ
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日本企業と米国企業の違い

経済学のビジネス活用が当たり前になってきた経緯と、ここ30年ほどのアメリカの経済成長とに何かしら関係性があるはずですが、ここではその検証を行うことが目的ではありません。

ただ、日本企業だって、この30年間、手をこまねいていたわけではなく、いろいろと手を尽くしてきたはずです。考えに考え、取り得る策は取ってきた。それでも経済が低迷しているのは、日本企業が今まで考えつかなかったこと、策を講じてこなかったところに成長のカギが隠れている可能性がある、と見ていいのではないでしょうか。アメリカと日本では、ビジネスの慣習も、組織のあり方も、働き方も大きく異なるため、アメリカとまったく同じことをせよ、とはいいません。

しかし、多くの成長企業が存在しているアメリカで採用している専門人材に注目し、経済学という有効なツールを自分たちのビジネスに合う形で取り入れるというのは、日本のビジネス界に対しても、ごく当たり前の提案のように感じています。

課題解決の選択肢の1つとして「経済学」活用の可能性を思い浮かべられるかどうか。課題解決の相談相手として、「経済学者」を思い浮かべられるかどうか。まずはそこが、大きな分岐点になると思います。