米国に渡った日本の経済学者たち
今後、日本企業において、本気で経済学を使ってビジネスを加速度的に改善していくためには、ビジネスサイドと経済学者サイドの歩み寄り、相互理解が欠かせません。
では、日本の経済学者サイドは、どのような状態か、というと、まだ十全ではないにせよ、自らの知見をビジネスに活用する準備が着々と整いつつあるといえます。
アメリカで経済学のビジネス活用が一気に進んだ1990年代半ば〜2000年代、実は日本の経済学の世界でも、少しずつ変化を感じ取っていました。その頃アメリカに留学した若手経済学者たちが目にしたのは、経済学とビジネスとの、日米での距離の違いでした。
日本では、経済学者は大学や研究機関に在籍しての研究活動が一般でした。その中では、直接的に「お金を稼ぐ」「富を生み出す」といったこととはなるべく距離を取ろうとすることも多かったといいます。
かたやアメリカでは、経済学者が企業に入り込み、「どうやって企業収益を上げるか」を真剣に考えている。「著名な経済学教授が、大学から民間企業に移籍したらしい」という話も聞こえてくる。しかも、元教授たちは、成長著しい企業の中でも、マネジメントに近い立場にいて高額な報酬を得ている(そのくらい貢献をしている)らしい。
この大きな違いが、日本の若手経済学者らに与えたショックは計り知れません。
当然ですが、当時の日本には、経済学をビジネスに活用しようという動きはほとんどありませんでした。
それでも、帰国してからも、頭のどこかにアメリカで見たビジネスとの距離を感じていたはずです。事実、自身の研究課題として、企業にアプローチして現実のデータを提供してもらい、研究を進める(その結果、企業課題に解決につながる)、といったことは、最近事例として少しずつ増えてきています。
準備は整った
それから約20年。当時は若手であった経済学者たちが、今、多くの大学や研究機関の主力人員となりつつあります。また、大学で学生を指導する立場でもあります。
その影響を受けた学生たちが、「ビジネス活用できる学問としての経済学」を当たり前のものとして認知している次世代の学者・ビジネスパーソンとして成長しつつあるのです。なかには、すでに経済学者として企業とともにビジネス課題に取り組んでいる人もいます。
まだまだ道半ばながらも、経済学のビジネス活用例がちらほら見られるようになってきました。経済学の有用性に気づいた企業から、次なる飛躍に向けて変わり始めているのです。
私が見ている限りでも、若い学者はビジネスサイドとの距離の縮め方がこなれている、フランクなコミュニケーションがうまい、ビジネス課題の理解が早いなど、企業と連携できる経済学者の層は着実に分厚くなっていると感じます。
経済学者も十人十色ですから、中には自らの専門分野をビジネスに活用することなど想像もしていない経済学者もいるでしょう。
けれども、多くの学者にとっては、ビジネスに飛び込むというのは、企業が保有する多くのリアルデータを研究の一端に活用できる絶好の機会。多くの経済学者が、ビジネスサイドに対して何かしらの興味を持っていると考えて間違いないでしょう。ビジネスサイドがその気になれば、経済学との接点をつくれる可能性は、今後一気に高まっていくはずです。