名プロデューサーが出したメッセージ

ただ、川島がMCを務める番組は、『BACK TO SCHOOL!』(フジテレビ系)、『シブヤノオト』(NHK総合)、『100%!アピールちゃん』『月曜の蛙、大海を知る。』『推しといつまでも』(MBS・TBS系)、『川島明の芸能界㊙通信簿』(フジテレビ系)など短命に終わるものが少なくなかったのも事実。

それでも「企画・構成がよくなかった」とみなされるなど、MCとしての評価は下がらず、むしろ『ラヴィット!』の成功で、むしろ盤石化していった。

この1年あまりでもMCを務める『サンデーPUSHスポーツ』(日本テレビ系)、『べスコングルメ』(TBS系)が新たにスタート。さらに、『お笑いオムニバスGP』(フジテレビ系)や『「VIVANT」祭り!第1部 緊急生放送SP』(TBS系)などの大型特番でもMCを務める機会が増えている。

象徴的だったのは、2021年3月の特番『異世界転生バラエティ 万年2番手だった麒麟川島明が転生したら千鳥おぎやはぎ山里を従えるメインMCだった件』(テレビ東京系)。プロデューサーの佐久間宣行が「万年2番手の川島をイジる」というコンセプトの企画だが、奇しくも放送翌週に『ラヴィット!』がスタートし、風向きが大きく変わった。

つまり、この特番の本質は川島ではなく、「実力にふさわしい活躍の場を与えられていない」という業界全体をイジるものであり、後のテレビ番組出演本数1位を暗示していたと言っていいだろう。

「じゃないほう」「万年2番手」でも腐らず焦らず自分の仕事に徹することで成功につなげたという過程は、芸人に限らず参考になるのではないか。

KDDIが11月12日に発売する「よしもとケータイ」を手にする麒麟の川島明さん(右から3人目)ら。同4人目はKDDIの雨宮俊武コンテンツ・メディア本部長(=東京都内、2008年10月16日)
写真=時事通信フォト
KDDIが11月12日に発売する「よしもとケータイ」を手にする麒麟の川島明さん(右から3人目)ら。同4人目はKDDIの雨宮俊武コンテンツ・メディア本部長(=東京都内、2008年10月16日)

決して突出した天才や職人ではない

では川島の何が評価されているのか。

まだ出演が深夜番組ばかりだったころから、反応の速さ、フレーズのバリエーション、MCやアイドルのフォロー、空気を読んだボケ・ツッコミ・裏回しなどの位置取りは、現場レベルで称えられていた。

また、自分にそれほどスポットが当たらなくても、進行や笑い重視で対応し、深夜帯や番宣目的の番組などでもまったくテンションが変わらないスタンスも川島の評価を高めていた。

多忙を極める現在でも、MCであるほか、コーナー進行、ひな壇など、どんなポジションでもこなし、「ボケ役もツッコミ役も裏回し役もOK」「レギュラーでもゲストでもOK」のマルチプレーヤーであり続けている。

芸能界で川島のようなマルチプレーヤーと言えば、「テレビ番組出演本数ランキング」の2位ハライチ・澤部佑、3位バナナマン・設楽統。さらに、博多華丸・大吉の博多大吉、オードリーの若林正恭、フットボールアワーの後藤輝基あたりだろうか。

これらは澤部を除けば、いずれもコンビの「じゃないほう芸人」と言われた顔ぶれ。自分より番組や共演者を優先するような穏やかさを感じさせ、いい意味でパワーやキャラクターは薄く、「発言に嫌味がない」という印象を与えている。もちろん「ここぞのタイミングでは前に出て笑わせる」という技術を見せることも怠らない。

もしこんな人物が自分の会社にいたらどうか。「好き」かどうかは個人差があるものの、「嫌い」と言われる可能性は低く、少なくとも「使える」「いてくれたら助かる」だろう。

けっきょく芸能界もビジネス界も、一部の突出した天才や職人以外はマルチプレーヤーが活躍の場を得られやすいのかもしれない。そして現在、芸能界におけるマルチプレーヤーの最高峰が川島明なのだろう。