不正の背景に「言ったもん負け」の文化

②年長者に意見できないヒエラルキー構造

2021年に話題となった三菱電機の品質不正問題。創業100年の大企業に起こったこの問題に対し、従業員からは何かを指摘したら割をくう「言ったもん負け」の文化があるという証言が出ていたそうです[※4]

品質不正問題について記者会見し、陳謝する三菱電機の漆間啓社長(左)ら
写真=時事通信フォト
品質不正問題について記者会見し、陳謝する三菱電機の漆間啓社長(左)ら=2021年12月23日午後、東京都千代田区

率直に語り合える文化にとって重要な「心理的安全性」という概念を解説した『恐れのない組織 「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』では、東日本大震災における福島の原発事故の背景が語られています。そこではこの事故を「懸念の表明より周囲との同調を重視する沈黙の文化だからこそ起きたもの」だと位置づけており、国会事故調(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会)の黒川清委員長が記した英語版の報告書の冒頭を、次のように引用しています。

これが「日本であればこそ起きた」大惨事であったことを、われわれは重く受けとめ、認めなければならない。根本原因は、日本文化に深く染みついた慣習──すなわち、盲目的服従、権威に異を唱えたがらないこと、「計画を何が何でも実行しようとする姿勢」、集団主義、閉鎖性──のなかにあるのだ[※5]

優秀な研究者の海外流出が止まらない理由

学界でも、年功序列のなかで若手が自由に研究できず、優秀な頭脳が海外に流出する状況が指摘されます。2021年にノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎氏は、渡米を決断した理由は「本音を率直に話さない日本独特の習慣」が重荷となったことだと話しています。他方で米国では、「上司が寛大で、研究で何でもやりたいことができた」と言います[※6]

旧体質の組織のなかには、職階や年功をもとにしたヒエラルキー構造が確立されていて、年長者に若手が意見するのは難しい風潮が残っています。議論が生まれず意思決定において率直に語り合えない文化は、会社組織や地域の町会だけでなく学校においても同様に感じます。年長者に黙って従うことや「議論することは悪」のような捉え方は、日本の隅々にまで蔓延まんえんしていると私には思えます。